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サッカーマガジン 1998年9月30日号
ビバ!サッカー

W杯の交通・輸送対策(二)
−2002年に向けてE−

 今回のフランス大会は、まとまりのいい大会だった。フランスの新幹線TGVが、パリから放射状に地方都市の会場に延びていて、非常に便利で快適だったからである。全席指定で試合の日は予約で満席だったが、ワールドカップのための特別列車を次つぎに増発した。

☆便利なのは観戦ツアー
 日本からワールドカップを見に行くには、本来なら団体の観戦ツアーに参加するのが、いちばんいい。
 大会でないときの、ふつうの観光旅行にくらべれば割高ではあるが、入場券代が大きな比率をしめているので、個人でけちけち旅行をしても、それほど節約にはならない。ツアー参加のほうが、結局は安上がりになる可能性が強い。
 必要なのは、入場券と宿泊と交通手段である。今回のフランス大会では、入場券詐欺のトラブルが起きたために混乱したが、通常なら入場券も、会場への足も、夜のベッドもセットで確保されている。
 入場券の問題は、別に改めて考えてみることにするつもりだが、ホテルと交通手段のアレンジは専門の旅行会社にやってもらうのが便利である。
 とくに足の便はツアーであれば、まず安心である。
 新幹線のTGVが便利だとはいっても、ナントのようにパリから比較的近い都市で夜に試合があったときは、夜中のTGVで戻るとパリ着が午前3時ころになって、地下鉄がまだ動いていないために往生する。しかし、団体旅行なら、ちゃんとバスを手配してあるから、タクシー待ちの長い行列に並ぶことはない。
 TGVは飛行機と同じで全部、指定席である。その予約は旅行会社が早めに団体で押さえている。
 海外旅行のアバンチュールを楽しみたいのなら話は別だが、ワールドカップの試合を見るのが目的なら、便利なのは観戦ツアーである。

☆TGVスペシャル
 観戦ツアーが便利なことは分かっているが、ぼく自身は参加したことはない。というのは、開幕から決勝までの長期旅行で、しかも、その間に予定がくるくる変わるからである。そこで行き当たり、ばったりに移動することになる。
 日本を出る前に友人に、こう忠告された。
 「TGVが便利だけど全席指定だからね。もう予約で一杯らしいぞ。フランスヘ行ってから、なんとかしようというのは無理だぞ」
  これは当然のことで、試合を見に行くとき、あるいは試合が終わって帰るときに便利な時間帯の列車は限られているのだから、そこに予約が集中するのは分かり切っている。その予約争いで、専門家の旅行業者に対抗するのは難しい。
 しかし、ぼくは過去の大会の例からみて「なんとかなる」と思っていた。サポーターとジャーナリストの大移動を、なんとかしなければ、ワールドカップは成り立たないからである。
 案の定だった。 
 時刻表に載っている列車の予約は日本で予約しようとしても、まず満席だった。 
 ところが、フランスヘ行ってみると時刻表に載っていない「ワールドカップ・スペシャル」の臨時列車がたくさん出ていた。 
 とくに深夜の試合終了後には、パリ行きのTGVスペシャルが、次つぎに出た。 
 ワールドカップは「特別」なのである。

☆サポーターとともに
 さて、現地でTGVの予約をとるのに、どうしたか?
 ぼくたちのようなジャーナリストの取材の基地として、パリの国際見本市の施設に大きなメディアセンターが開設されていて、そのなかにフランス国鉄、日本でいえば、いわばJRの出張所がある。
そこの窓口で希望を言えば、コンピューターで空席を探してくれた。早めに頼めば、日本で旅行社を通じて探したときは、みな満席だった場合も、たいてい座席がとれた。これは特別列車が次つぎに仕立てられたかららしい。
 しかし、間ぎわになって探した場合は満席のこともあった。
 オランダ対メキシコの試合を、サンテチエンヌに見に行ったときは、メディアセンターでは、予約がとれなかった。
 そこで、当日の朝早く始発駅に行って切符売揚のコンピューターで探してもらった。そうしたら、ちょうどいい列車の席が一つ空いていた。
 これは、車室内の、ちゃんとした座席ではなくて、車両と車両のつなぎ目の近くにある車室外の予備席だった。折り畳み式の椅子に座っていたら、空席ができたときに車掌さんが案内してくれる仕組みである。乗り遅れたお客さんがいたり、急にキャンセルが出たりして、席が空くこともあるわけである。
 乗ってみたら、その列車はオランダとメキシコの団体客のための特別列車だった。オレンジ色とグリーンのシャツを着たサポーターたちが発車のときから盛り上がっていて、ぼくは最後まで予備席のままだった。


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