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サッカーマガジン 1998年9月16日号
ビバ!サッカー

日本代表チームの新監督

 日本代表チームの新監督に、フランス人のフィリップ・トルシエ氏が内定したらしい。フランス・ワールドカップのとき、南アフリカの監督を務めた人物である。2002年へ向けてのフランス大会の話を中断して、今回は新監督選定について考えてみる。

☆トルシエ氏は適任か?
 この44歳のフランス人が、日本のサッカーに向いているかどうかは、まったく知らない。日本代表チームの次の監督に決まったというフィリッブ・トルシエ氏の話である。
 フランスの2部か3部のクラブの監督を務め、その後、アフリカのいくつかの国を指導して成果を挙げたことくらいは知っている。
 でも、どんな指導をするのか、技術指導にすぐれているのか、戦術家なのか、カリスマ性のあるリーダーなのか、日本のサッカーを指導するについて、どんな見識を持っているのか、ぼくはまったく知らない。
 日本サッカー協会の技術委員会は、そういう点は十分お調べになったことと思う。大仁邦彌・委員長は自信をもって、トルシエ氏を岡野会長に推薦したのだろうと思う。そうであると信じたい。
 そういうわけで、トルシエ氏が適任かどうかについて、ここで自分の意見は述べられない。現段階では、大仁委員長を信用するしかない、という気持ちである。とはいえ、本音をいうと「大仁委員長は、ほんとに自信と責任をもって推薦したのかなあ」と半信半疑である。
 トルシエ氏に反対ではない。まず第一に外国人の監督に賛成である。日本人で実績のある適任者はいないと思う。第二に、アフリカでいくつかの実績を残している点は信用できる。第三に年令的にもちょうど働き盛りでいい。
 初めての人の力量は、やらせてみなければ分からないのだから、まずは「お手並み拝見」である。

☆ベンゲル氏の推薦で
 日本サッカー協会技術委員会の最初の狙いは、いまイングランドのアーセナルを指揮しているアーセン・ベンゲル監督だったという話である。
 ベンゲル氏なら名古屋グランパスエイト監督だったから、よく知っている。名古屋が天皇杯で優勝したとき、わが「ビバ!サッカー」から日本サッカー大賞特別賞を送って誌上表彰したくらいである。
 ワールドカップで日本代表が3連敗し、岡田監督の退任が決定的になったとき、すでにフランスで、日本のジャーナリストたちはベンゲル氏のまわりに群がっていた。ベンゲル氏が、ワールドカップでテレビの解説をしていたからである。日本代表チームがキャンプしていたエクスレバンに、ベンゲル氏が現れたというので、日本のジャーナリストたちが色めき立ったこともある。
 しかし、その時点で「実際にはベンゲルは無理だろう」と多くの人は言っていた。アーセナルとの契約が残っているから、すぐには難しい、2000年から2002年までの2年間なら可能性がある、というのが大方の見方だった。
 かりに2000年から2002年までの2年間をベンゲル氏が引き受けるとしても、その間のつなぎを誰にやってもらうかが問題だった。
 トルシエ氏を推薦したのは、同じフランス人のベンゲル氏だということである。
 とはいえ、トルシエ監督がベンゲル監督への「つなぎ」かどうかは現時点では分からない。トルシエ氏が適任であれば当然、続投である。

☆外国人監督がいい
 ワールドカップで日本代表の決勝トーナメント進出が不可能になった時点で、次の日本代表の監督を誰にすべきかについて、フランスに来ていたジャーナリストの友人たちと、野次馬的に議論をした。そのとき検討したポイントが二つあった。
 第一は、日本人がいいか、外国人がいいかである。ぼくの考えでは、今回は外国人しかない。いまJリーグに、外国の一流の監督がたくさん来ていて、選手たちはその指導ぶりになじんでいる。そのために日本人の指導者を信頼しない傾向がみえるからである。それに、ときどき窓を開けて外の風を入れる必要もある。
 第二のポイントは、2年契約か、4年契約かである。力を発揮してもらうには2年くらいは任せなければならない。思い切って2002年までの4年間を任せる手もある。
 いずれにせよ、途中で「こりゃダメだ」となったら任期途中でも解任するほかはないが、その場合は残り期間の報酬は支払うことになる。
 2年契約だと不適任だったときの損害は少ないが、逆に適任だったときは、続投を求めると断られたり、報酬の値上げを要求される可能性がある。そのために、はじめから4年契約で拘束しようという考えもある。
 「協会の幹部は、2002年は日本人監督でやるというだろうな」と友人が推測した。
 いい人材がいれば、もちろん日本人でいいが、ぼくなら、こんなところでナショナリズムにはこだわらない。腕のいい職人なら、出身地はどこでもいい。


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