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サッカーマガジン 1998年9月2日号
ビバ!サッカー

続々・W杯のホテル事情
−2002年に向けてB−

 ワールドカップを取材するジャーナリストにとっては、宿泊は大きな問題である。旅慣れた連中が多いので立派なホテルは要求しないのだが、時間に追われながら各地を飛び回るので、近くて安いところを簡便に見付けたい。フランス大会は、その点では落第点に近かった。

☆マルセイユでの失敗
 フランスのワールドカップでは、パリのホテルの屋根裏部屋を借りっ放しにして本拠にし、地方の都市へ出掛けるときには、そのたびにホテルを手当てすることにしていた。行き当たりばったりで、行ってみればなんとかなるだろうという、いい加減な計画である。 最初にマルセイユに行ったときはそれで失敗した。
 マルセイユ空港に着いたらサッカー・ジャーナリストの友人とばったり出会ったので「泊まるところあるの?」ときいたら、大会公認業者のモンディレーサを通じて予約してあるという。
 「荷物があるから、まずホテルへ行く」と友人。「そりゃあいい。一緒に行こう」とぼく。そのホテルに空き部屋があったらとろう、なくても友人の部屋にベッドが二つあるだろうから、強引にもぐりこもうという魂胆である。
 友人がタクシーの運転手さんにホテルの名前を書いた紙を見せて「まずホテルに寄って荷物を置いてから競技場に行きたい」と交渉している。運転手さんは紙切れをみて「そこはマルセイユじゃない。別の町だよ」と言う。「ま、とにかく行ってくれ」と2人でタクシーに乗り込んだ。
 タクシーは空港から、マルセイユ市街とは正反対の方向に、どんどん走った。30分ちかくも走って、着いたところは湖に臨む閑静な滞在型リゾートホテルだった。
 「フォス・シュール・メール」というところである。がらがらにすいていて、部屋は難なくとれたのだが……。

☆遠くて閑静なホテル
 ホテルに荷物を置いて、マルセイユに向かう。いま来た道を、また空港の近くまで戻って、さらにそれ以上の距離を走り、1時間近くかかって、やっと市街地のなかのスタジアムだった。
 キックオフは夜の9時。試合が終わったあとスタジアムを出たのは深夜である。2人でタクシーを拾って再び長いドライブをし、空港の近くを通り抜けて「フォス・シュール・メール」にたどり着いたのは、午前1時に近かった。この日、全部で150キロくらい走った感じだった。
 ホテルの設備は、なかなかよかった。豪華ではないが、ベッド2つの広い部屋でバス付きである。パリで借りていた屋根裏部屋はシャワーだけだったから、ワールドカップ期間中、湯ぶねにつかったのは、このときだけだった。ただし1泊1万8000円。タクシー代と合わせると、相当な物入りである。
 翌朝、起きてみたら、部屋の外には広い庭と湖が広がっていた。プールもあった。ぼくは午後の飛行機でパリヘ戻ることにしていたが、飛行場はマルセイユ市街に行くよりも、ずっと近いのだから、あわてることはない。午前中はゆっくり滞在して、南フランスの風光を楽しんだ。
 友人のほうは、マルセイユから列車で移動することになっていたので朝早くチェックアウトした。鉄道の駅はマルセイユ市内だから、ホテルからは相当に遠い。
 友人は、高い交通費と宿泊費をかけて、景色のいいホテルに、夜中だけ滞在したわけである。

☆ジャーナリストの宿
 さて、ぼくと友人の「遠くて高価な経験」から2002年のワールドカップのために、どんな教訓が引き出せるだろうか。
 まず、ジャーナリストのためには「近くて安い」宿泊を用意してほしい、ということである。
 ぼくたちの仲間は、豪華な国際級のホテルや閑静なリゾートホテルには、まず用がない。ジャーナリストにとって何よりも重要なのは「時間」である。競技場に近いのが、いちばんいい。
 宿泊費は安いにこしたことはないが、安ければ設備は悪い。しかし、ほとんどの仲間は、あまり設備は気にしない。夜遅く着いて、朝早く飛び出したりするのだから、ベッドさえあればいい。
 ただし、過去の大会では「電話がちゃんとしている」のが、われわれのホテルの条件だった。原稿を送ったり、連絡を受けたりするために、通信手段を確保することが最優先だったからである。だから極端に安いホテルには泊まれなかった。
 しかし、最近の大会では事情が恋わってきている。携帯電話と電子機器の発達普及で、どんな不便な場所からでも、簡便に通信できるようになってきたからである。
 記事だけでなく写真電送も自由にできるようになりつつある。2002年大会では、ほとんど問題はないだろう。
 日韓共催の大会では、韓式旅館のオンドル部屋でも和風の安宿のタタミ部屋でもいい。欧米のジャーナリストも結構、面白がるだろう。ただし「安くて近い」のが条件である。


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