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サッカーマガジン 1998年8月19日号
ビバ!サッカー

W杯のホテル事情
−2002年に向けて@−

 ワールドカップ・フランス大会について書き残したことが、たくさんある。Jリーグ再開など、ほかにも書くべきことは、あるのだが、日韓共催の2002年もあることだし、飛び飛びになるかもしれないが、ワールドカップについてのシリーズを書き続けることにしたい。

☆パリの屋根の下
 33日間にわたるワールドカップの期間中「パリの屋根の下」に住んでいた。パリ市街中心部の近くの三ツ星のホテルの1部屋を期間中、借りっ放しにして本拠地にしていたのだが、その部屋が6階、日本式にいえば7階の屋根裏部屋だった。天井は斜めになっている。窓は屋根の斜面に四角に突き出している。フランスの映画や絵画に出てくる「あれ」である。
 「パリの屋根の下」に住んでいる――というシャレが、若い人たちには通じない。そこで、第2次世界大戦の前に「パリの屋根の下」という題名のフランス映画があって、同じ名前のシャンソンが大流行して……などと、いちいち説明するのは野暮だろうな。
 ともあれ「サッカー協会のお偉方は、他人の財布で超一流ホテルを占拠していたが、ぼくは屋根裏部屋で自前で安いボルドーを飲んでいたんだよ」と、いいたいわけである。
 この屋根裏部屋は、5月になってから、パリの友人に頼んで借りてもらったものである。1泊666フラン、約1万7千円。朝食50フランは別である。これはなかなかの物入りだった。
 ワールドカップのような大きな国際スポーツ大会のときには、ホテル代が、にわかに高くなる。大会の半年前から3カ月前くらいに予約しようとすると通常期の2倍くらいのこともある。直前になるとキャンセルなどで空き室が出て、多少は下がるものだが、5月の予約でも、思ったほどには下がっていなかった。

☆需要と供給のアンバランス
 ワールドカップやオリンピックのときにホテル代が上がるのは、ホテルの客室数は変わらないのに、お客さんが増えるからで、経済学の用語でいえば、供給は一定だのに需要が増えるからである。もっと正確にいうと、需要が急増するだろうと当て込んで値上げするわけである。
 ホテル代の値上がりには、さらに別の要因もある。
 大会を運営する団体は、世界中からやってくる役員や報道関係者のために、あらかじめホテルを確保しようとする。そのために、1年くらい前から中級以上のホテルの大会期間中の予約を押さえてしまう。そうすると一般のお客さんのためのベッド数には、供給の減少も起きることになる。需要が増えて供給が減れば価格は上がる。教科書どおりである。 
 さて、大会関係者のための宿泊確保は人数の予測がむずかしい。とくにジャーナリストやテレビ関係者の場合は、総勢で何人くるか正確には予測できないし、押さえてあるホテルを、そのうちのどのくらいの人たちが、利用してくれるかも分からない。ほんとのところ、大会当局の用意するホテルは高すぎるので、自分で安いホテルを探す人が多いのが実情である。
 多めに押さえておくと、利用者が少なくてムダが出る心配がある。そこでムダが出たときの損害をカバーしようと一人あたりの価格を高めに設定することになる。その価格が、他の一般のホテルの価格設定の基準になって、どのホテルの料金も、ますます上がるということになる。

☆頼りにならない公認業者
 フランスの組織委員会では、ワールドカップに関する宿泊を、モンディレーサという会社に委任した。大会取材の許可を得たジャーナリストにも、この会社から「ホテルを世話します」という案内がきた。
 ところがである。
 1月に、この会社にファックスで申し込んだら「もう満員で空きがない」という返事だったという。空き室が出るのを恐れて、押さえた部屋数を控えめにしたに違いない。そのうえ料金は1泊1200フラン以上で、かなり高かったらしい。
 そんなことだろうと思ったから、ぼくはモンディレーサを当てにしないで、パリのホテルは友人に頼んでおいた。
 しかし、試合はパリだけでなく、あちこちの都市である。そこでマルセイユやツールーズに出掛けるときには、試合の日の晩だけ現地でホテルを探すことにした。
 予約はむずかしくても、当日になれば空き室が出るものだし、大手の旅行業者が扱わないような安いところは、案外空いているものである。
 10日間くらい、その方法で旅しているうちに、現地で泊まるよりも夜行列車でパリヘ帰るほうが都合がいいことに気が付いた。
 夜9時からの試合だと終わるのは深夜になるが、ちゃんとTGV(新幹線)の深夜便や寝台列車が用意されている。時刻表に載っていなくても、ワールドカップ・スペシャルが出るのである。
 日本のJRに「2002スペシャル」を、ちゃんと用意してくれるようにお願いしなくちゃいけない。


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