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サッカーマガジン 1998年6月24日号
ビバ!サッカー

カズは、なぜはずれたか

 日本代表チームから三浦カズが、はずされた。ワールドカップのなかに身を置くことを誰よりも熱望していたプレーヤーだけに、その気持ちを思いやると胸が痛い。年齢的にピークを過ぎているとはいえ、技術も、精神力も、経験も日本のトップである。あの実力を生かす手はなかったのかと思うのだが…。

☆これも一局のサッカー
 「これも一局の将棋」という「ことば」があるそうだ。将棋は駒の動かし方くらいしか知らないので、間違ってたらご免なさいだが、こういうことではないだろうか。
 ある局面で飛車を動かしたとして、それで一局の将棋が進行する。しかし、その場面で角を動かす手もあって、そう指したとしても、それはそれで勝負になる。その後の展開は、まったく違うものになるけれども、こちらも「一局の将棋」だということである。
 フランス・ワールドカップの日本代表からカズ(三浦知良)がはずされたニュースをきいて、この将棋の表現を思い出した。
 岡田監督は、カズのいないチーム作りを構想した。それはそれで間違ってはいない。
 しかし、カズを入れたサッカーを構想することも可能である。それはそれで「一つのサッカー」である。
 どちらかが正しく、一方は間違っているというものではない。どちらも成り立つが、指し手がどちらを選択するかである。
 岡田名人はカズのいない指し方を選択した。それでいい。結果は対局者の責任である。「岡目八目」で、あれこれ言ってもはじまらない。
 おっと!「岡目八目」は囲碁のほうの「ことば」だった。
 岡田監督は、スペースを生かす中田からのパスによる逆襲速攻のサッカーを選んだ。アルゼンチンやクロアチアに対して、それが有効だと考えた。そのためには中田−城のコンビのほうがいい。

☆監督とカズの価値観
 カズを動かす将棋、ではない、サッカーも成り立つ。
 カズはドリブルの名手である。ドリブルで持ちこたえ、攻めを展開するのも一つの方法である。
 逆襲速攻で失敗を繰り返し、そのたびに相手にボールを奪われて押し込まれるよりも、ドリブルで突破し、持ちこたえて攻めを組み立てるほうがいいではないか、味方がボールをキープしている時間を長くするほうが守りとしても有効ではないか。そういう考え方も成り立つ。
 どっちにしても、これは指し手の選択、いや、監督の選択である。
 これを「文化の違い」にたとえることもできる。
 誤解をおそれずに端的に言えば、岡田監督はパスとチームワークのドイツ型のサッカーを選択した。しかし、カズを軸にチームを組み立てれば、ドリブルと個人技のブラジル型のサッカーになる。選択肢としては、これもあり得る。
 ドイツの文化とブラジルの文化の違い、岡田監督の文化とカズの文化の違い、というのは、こじつけに過ぎるだろうか。
 文化の違いに「価値判断」を持ち込むのは適当でない。欧州諸国はキリスト教の文化による価値観を絶対だと思い込んで、16世紀からアジアやアフリカやアメリカ大陸を侵略した。現代からみれば、これはキリスト教文化の犯罪である。
 代表選手に選ばれるのは「名誉」ではあるが、選ばれなかったのは不名誉ではない。監督と価値観が違っただけのことである。

☆北沢と市川の場合は
 スイスまで連れて行った25人のなかから岡田監督は3人をはずした。カズ以外の2人は予想通りだ。
 北沢豪の出番は、岡田監督が4−4−2でなくスイーパー・システムを採用した時点でなくなっていた。スイーパー・システムにすれば、守備ラインを5人とみなした場合、中盤は3人でトップ2人、あるいは中盤4人でトップは1人になる。
 中盤3人トップ2人の場合、守りを重視すれば、前線にスペースを作る役割はトップ2人のうちの1人に任せることになる。岡田監督は、その役割を城に期待しているのだろう。 
 中盤4人トップ1人の場合は、前線の1人が動いたあとにできたスペースに後方から進出するプレーヤーが必要である。その中盤プレーヤーにはシュート力が必要である。
 この二つのケースを想定した場合には、北沢は出番がない。 
 しかし、日本がフランス大会の出場権を得ることができたのには、アジア予選の最終段階での北沢の貢献が決定的だった。その点は忘れるべきではない。 
 フランス大会に登録された22人は、カズと北沢のおかげであることを銘記してもらいたい。 
 18歳の市川大祐は、はずれて当然である。素質のあるプレーヤーだが、ワールドカップに出るには、もっと国際試合の経験が必要である。 
 市川については、1978年大会で開催国アルゼンチンのメノッティ監督が最後の最後に、当時17歳のマラドーナをはずしたのを思い出した。市川はマラドーナのように大成するだろうか?


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