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サッカーマガジン 1998年6月17日号
ビバ!サッカー

キリンカップからW杯へ

 日本代表チームは、キリンカップを2引き分けで終えて、フランスへ出発した。キリンカップでのチェコとの引き分けを、どのように評価できるのか? 初出場のワールドカップ決勝大会で、日本はどのように戦うのか? そして、どの程度、戦えるのか?

☆チェコと引き分けの評価
 キリンカップの最終戦、5月24日のチェコとの試合を見に、兵庫県の加古川市から日帰りで横浜国際総合競技場に出掛けた。結果は0対0の引き分け。これをどう評価するか? 仲間たちの意見は、まちまちだった。
 たとえば、セルジオ越後氏は、テレビで「攻撃力が不十分だ」と批判的な意見を述べていた。親愛なるセルジオは、元ブラジルのプロ選手だから、ブラジルのスタンダードでものを見る。手厳しいのは当然で、これが、ほんとのグローバル・スタンダードかもしれない。
 若い友人たちは、とにかく、勝たなければ不満である。相手が世界ランキング3位のチェコであっても、引き分けでは納得しない。 「攻めに型がないよ。これが日本の攻めだという型を一つは持たなければ…」と、もっともらしい意見を述べている人もいた。
 横浜での試合が終わったあと、いま売れっ子の「サッカー評論家」である友人と食事をしたのだが、この友人は「あれだけ、やれれば、よしとしなくちゃ。あれ以上を望むのは無理だよ」と言っていた。ぼくも同じ感想である。
 この友人も、ぼくも、いささか歳なのである。セルジオは、世界一のブラジルを基準にし、若い人びとは自分たちの夢を基準にしている。
 しかし、いささか歳をくった、ぼくたちは、過去の日本のサッカーを基準にし「よくぞ、ここまで伸びたものだ」と感慨にふけってしまうわけだ。0対0の結果だけでなく、内容もなかなかだったと思う。

☆守りは井原が軸
 新幹線の列車の客室のドアの上のほうに、新聞社の提供する電光ニュースが出る。関西へ戻る列車の中で、それを眺めていたら「サッカーキリンカップ チェコ0対0日本、チェコが優勝、日本4連覇を逃す」と流れていた。
 「ちょっと違うな」と、ぼくは思った。ニュースとして間違いではないが、今回のキリンカップのポイントは優勝争いではない。
 もともと、日本が招待して開催している親善試合である。弱いチームばかり招待すれば、毎年、優勝し続けることだって可能である。そんなことは無意味なので「4連覇」を逃したって、どうってことはない。
 今回のポイントは、岡田監督が、フランスのワールドカップで、どんな戦いをしようとしているかを、うかがうことにあった。
 守りは、井原を軸としたスイーパーシステムのテストが成功した。
 ぼくの好みは、4人のディフンス・ラインによるインテリジェンスを生かしたゾーンの守りである。個人の戦術能力の優れたディフェンダーを揃えて、長期の戦いを戦いぬくのであれば、ゾーンの守りが効率的だと思う。
 しかし、これは選手の能力を知り抜いた岡田監督の選択である。
 第1戦のアルゼンチンとの試合に全力でぶつかるのであれば、コンディションを十分に整えて臨めるのだから、マンツーマンの厳しい守りに体力のすべてを注ぎ込むことも一つの選択である。キリンカップで、そのテストは成功したと思う。

☆小野の進歩が収穫
 キリンカップのプログラムの冊子に岡田監督のインタビューが載っていた。ポイントが整理されていて、なかなかいい記事である。
 ついでに言うと、日本サッカー協会の試合プログラムは、出来不出来があるが、今回のキリンカップのプログラムは、読むに値する記事があり、データもしっかりしていた。
 インタビューの中で岡田監督は「中田を軸としてゲームプランを指示している」ことは「1度もない」と語っている。しかし、攻めで中田が軸になることは明らかである。
 キリンカップでは、中田はアトピー(だろうと思う)に悩まされて、第1戦を欠場し、チェコ戦でも本調子ではなかった。しかしワールドカップの本番までには、きちんと体調を整えてくるだろうと信じている。それができないようなら、才能あふれる中田も、国際的なスタープレーヤーにはなれない。
 キリンカップのチェコ戦では、若手の小野を交代出場させ、中田と並べて使ったことに注目した。
 小野は、4月のソウルでの韓国との親善試合では、試合の終わりごろに岡野とともに交代出場した。岡野は試合の後半に、敵が疲れたころを見計らって、スピードを生かして使われるスーパーサブ要員である。そのときに小野を、浦和レッズのコンビで一緒に使うつもりのように見えた。
 しかし今回は、岡野と切り離して交代出場させた。プレーぶりは、進歩の跡が著しかった。これは大きな収穫だった。


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