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サッカーマガジン 1998年5月20日号
ビバ!サッカー

フランスW杯視察のポイント

 フランスのワールドカップには、サポーターや取材陣のほかに、2002年の開催地から視察に行く人たちがいる。サッカーに詳しくはないが、それぞれの分野の専門家である人びとに運営ぶりを見てもらうのは、非常に有益だろう。そこで、その視察のポイントを考えてみた。

☆五輪とW杯の違いを
 「フランスのワールドカップを視察に行くんだけど、どういうところを見てくればいいかね」
 2002年の開催候補都市にいる友人に、こう聞かれた。
 サッカー人気にあふられて、これまでには想像もしなかったような大勢のサポーターが、フランスへ行くらしいが、それだけではない。次のワールドカップの開催地に選ばれている10の都市あるいは府県からも、視察に行く人がいる。
 視察にいく人たちは、県や市のお役人で、必ずしもサッカーに詳しくはない。背景になる基礎知識が十分でないから、見当違いな見方をしてきては困るが、逆に、サッカーを知りすぎている人たちが気が付かない点を見付けてくるかもしれない。
 一般論としていえば、見てきてほしい最大のポイントは、オリンピックとの違いである。 
 オリンピックは、いろいろな競技を1カ所に集めてやる。参加国数も選手数も多い。競技場もたくさん作らなければならない。だから準備も運営もたいへんである。黒字にするのは、莫大なテレビ放映権利金が入るようになった現在でも、難しい。
 ワールドカップのほうは、サッカー1競技で、会場は各地に分散している。したがって、準備も運営も、オリンピックにくらべれば楽なものである。テレビ放映権料も、入場料収入もオリンピック全体より多くなってきているから、財政的にも、ゆったり、やれるはずである。
 というわけで、楽に、たのしく運営しているところを見てほしい。

☆報道サービスの仕組みを
 とはいえ、視察に行く人の多くは出張を命ぜられて行くのだから、帰国してから「のんびり楽しんできました。ワールドカップの運営なんて楽なものです」と報告するわけには行かない。と思って、もう少し具体的なポイントをアドバイスすることにした。
 専門の分野については、アドバイスするまでもない。たとえば警察関係の人は警備の状況を視察してくるだろう。フーリガンは、ヨーロッパのほうが本場で、その対策は向こうの警備当局は手慣れたものである。日本の考え方ややり方との違いを、しっかり見て、意見を聞いてくるに違いない。
 輸送についても、同様で、専門家は専門家同士のつながりがあるだろうから、ちゃんとポイントを見てくるに違いない。
 それで、自分が専門に視察する分野以外で「これを覗いてみたらいいよ」という点を二つ指摘することにした。
 一つは、報道サービスの仕組みである。
 なにしろワールドカップでは選手の数よりも、世界各国からくる報道関係者の数のほうが多いのである。これをコントロールするのは、大会組織当局の頭痛の種である。
 取材する側も、十分な情報が提供されないと、いらいらして無理をする。そうなると大混乱である。
 というわけで、警察関係者も、輸送関係者も、できればメディアセンターを覗いて、報道サービスのシステムと実態を見てきてほしい。きっと参考になると思う。

☆融通が利く運営ぶりを
 もう一つ、専門外の分野で、覗いてほしいのは、練習場である。
 開催地元は、練習場を用意することになっていて、2002年の場合は、会場へ30分以内でいけるところに、1カ国について1カ所を用意することになっているらしい。
 ところが、これが現実的かというと、そうでもない。
 たとえば、過去の大会で、ブラジルは郊外の1時間以上かかる場所に独自の練習場を借りて立てこもっていた。静かで報道陣やファンに邪魔されない環境が必要だからである。
 とはいえ、ブラジルの報道陣やファンは、簡単にはあきらめない。そこで、はるばる郊外までやってきた報道陣には取材の便宜を図り、ファンには練習ぶりを覗けるような配慮もしていた。   
 こういうことは、杓子定規に規則で決めて、そのとおりにやろうとしても難しい。そこんところを、どう準備し、どう対処するかを見てきでほしい。
 ワールドカップの準備は、オリンピックとは非常に違う。オリンピックは、規則づくめのところがあるから、日本のお役所仕事でも、ある程度は通用するところがある。
 しかし、サッカーのワールドカップは、規則はあっても融通を巧みに利かせなければならない。いろいろな国の風習の違いを考慮しながら、混乱を防ぐ手立てを講じなければならない。 
 「そういう、ちょっと、いい加減なところの良さも、見てきて欲しいね」と、ぼくは無理な注文を付けた。


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