ワールドカップ・フランス大会に出場する日本代表の顔触れが決まった。カズも、井原もちゃんと入っているし、呂比須ワグナーも外れなかった。「当たり前だ」と思うが、これが大ニュースだったらしい。新聞は予告記事を1面で大扱いするはしゃぎぶりだった。
☆予告記事を1面扱い
日本のスポーツ・ジャーナリズムの歴史に、ぜひ書き残しておいてもらいたい。何を? ワールドカップ・フランス大会への日本代表が決まったときの大騒ぎを――である。
岡田監督が発表したのは、5月7日の午後だった。
ところが、7日の朝に配達された朝刊には、もう代表25人の顔触れが掲載されていた。朝日新聞は、7日付け朝刊1面に25人の名前を一覧表にして載せていた。「スクープ」として、相当の自信を持って報道したに違いない。ぼくは、6年前まで東京の新聞社でスポーツ記者をやっていたから、そのあたりの事情は、紙面をみて、だいたい見当がつく。
7日付けの朝刊の紙面は、その前日の6日夜に作る。だから記事を書いたのは、発表の前の日ということになる。新聞のほうがサッカー協会よりも前に発表してしまったわけである。
こういうのを「予告記事」という。正式には発表されていないのに「きょう発表」とか「きょう決まる」という形で活字にしてしまう。朝刊の記事は、配達の前の日に書くのだから「きょう発表」と書いているとき、実は書いている記者にとっては「あす発表」なのだが、朝刊を読む読者にとっては「きょう」なので、見出しでは「きょう」という表現を、よく使う。
人事の予告記事を一覧表付きで載せるのは、相当に自信がなければできない。一人でも違えば、誤報になるからである。
☆カズ復帰が見出しに
朝日新聞の一覧表は一人も間違っていなかった。それはそうだろう。日本で一、二を争うほど信用のある新聞が、あえて予告記事を1面扱いにしたのだから、確度に絶対の自信を持っての報道に違いない。
ぼくが見たのは、兵庫県の加古川市に配達された紙面である。大阪で印刷されている朝日新聞や読売新聞は最終版ではない。
地元の神戸新聞は最終版で、これも1面扱いだった。おそらく共同通信社の配信だろう。
スポーツ面で詳報、社会面でサイドものと、一覧表はなかったが、内容は、これも絶対の自信を持っての予告記事だった。
朝日の予告記事の見出しは「FW、カズら5人、日本代表25人決まる」だった。神戸新聞の見出しは「W杯代表に10代コンビ、浦和・小野、清水・市川、注目のカズも当確」となっていた。
読売新聞は1面扱いではなかったが、スポーツ面に予告記事を載せている。「カズ代表に復帰へ」という見出しで、カズが選ばれることをニュースとして扱っていた。
いずれにしても、カズがフランス行きのメンバーに選ばれることが、関心事だったようだ。
発表当日は各紙とも夕刊で扱っている。神戸新聞は1面にカラーで25人全員の顔写真を載せている。もちろん一覧表付きである。
読売の夕刊も1面に一覧表付きだった。朝刊で「カズ復帰」をうたっているから、夕刊のほうは「18歳・小野、17歳・市川ら」と、若手コンビの起用を見出しにしていた。
☆バランスのいい顔触れ
当日夕刊の段階でも、実はまだ予告記事である。発表は7日午後だったので、読者が夕刊を読む時点では発表済みだが、記事を書いている時点は7日の午前中で発表前である。注意して読めば「7日午後、日本サッカー協会から正式発表される」と書いてあるのに気付くはずだ。「発表された」と過去形になっていないのは、予告記事だからである。
ところで、この異常なまでのマスコミの報道合戦で、焦点になっていたのは「ベテランか、新人か」だった。31歳のカズが入るかどうかが注目の的になり、10代の小野、市川の起用がニュースになった。
発表前の1カ月間、一部のマスコミの関心の持ち方は異常だった。
ぼくのところにも、ある週刊誌が「悲劇のカズ」という内容で原稿を頼んできた。カズが悲願のワールドカップ出場を果たせなかったケースを想定しているわけである。
3日前には別の週刊誌が「井原を外すべきだ」という前提で意見を聞いてきた。「守りの中心であるベテランの井原と、若手のゴールキーパーの川口の関係がうまくいっていない。このさい井原を切るべきだ」という考えである。
「そんなバカな」と、ぼくは思った。ケガでもない限り、カズも井原も外すことのできない選手である。そのことは、これまでも、ビバ!サッカーに書いている。
正式発表された顔触れを見れば、ベテランも新人も入って、バランスのとれた構成になっている。「これでいい」と、ぼくは思う。
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