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サッカーマガジン 1998年4月29日号
ビバ!サッカー

W杯日韓共催がピンチ?

 2002年ワールドカップの共同開催を機会に、日本と韓国との関係が新しい時代に入って欲しい。韓国の経済危機でスタジアム建設がむずかしいというニュースが伝えられているが、サッカーは大衆のスポーツだ。大衆がしっかりしていれば、ワールドカップも大丈夫である。

☆韓国の経済危機
 「おい、たいへんだぞ、韓国がワールドカップを返上するらしいぞ」
 「まさか…」
 「テレビのニュースで言っていた。韓国政府が閣議で決めたそうだ。あの経済状況では、2002年は無理だよなあ」
 友人の話をあやうく信じるところだったが、これはエイプリル・フールだった。
 しかし、まんざら根拠のない話でもなかった。数日後に「韓国政府がソウルにスタジアムを新しく作る計画を認めないことにした」という二ユースが伝えられた。理由はやはり「経済危機」である。
 昨年11月にワールドカップ予選の韓日戦を見にソウルに行ったとき、韓国の通貨であるウォンの交換レートは、米国の1ドルが900ウォンくらいだった。
 日本に戻ると間もなく、タイやインドネシアをはじめ、アジア諸国の通貨の大暴落がはじまって、一時は韓国でも1ドルが2000ウォンくらいまで下がっていた。
 分かりやすくいえば、それまで900円で売っていた米国製のチョコレートが、一夜にして2000円に値上がりしたようなものである。国内産の労働力の対価である給料は、すぐには2倍にはならないから、韓国の経済は、たいへんな危機であるに違いない。
 この4月の韓日サッカーでソウルに行ったときは、1ドルが1300ウォンくらいで落ち着いていた。
 それにしても、2002年が心配になるのは無理もない。

☆競技場ができない?
 チョコレートを買えないくらいはがまんできる。韓国特産のアメの方が安くておいしい。でも、スタジアムを建設するとなると話のケタが違う。鉄もセメントも石油も大量に必要である。その多くは外国からの輸入品である。
 ウォンが下落したのは、韓国の持っているドルが足りなくなったからである。また韓国政府の財政に対する信用が薄くなったからである。
 外貨もないし、信用もないとなると、外国からモノを輸入するのは、むずかしい。スタジアムの建設は取り止めた方がいいという話になる。
 経済の話はよく分からないのだが、おおよそ、以上のような筋道なんだろうと推察した。 
 2002年のワールドカップの開幕試合はソウルで行なうことになっている。そのスタジアムができそうもないのでは、日韓共催が心配になってくる。
 決勝戦は日本で行なうことになっており、その会場候補である横浜国際総合競技場は、もう立派にできあがっているのだから、韓国の方も、しっかりしてもらいたい、という気持ちになる。 
 ソウルのオリンピック・スタジアムは、10年前のオリンピックの主会場になった施設だが、これはもう老朽化している。先日の韓日戦でも、試合後のインタビューをする部屋がお粗末で、がたがたになっていた。 
 新スタジアムができないのなら、このオリンピック・スタジアムを大改修するか、ソウル以外の都市に開幕試合を持っていくことになる。それもなかなか、たいへんである。

☆未来は明るい
 とはいえ、ぼくはそれほど心配はしていない。
 経済危機といっても、外国との為替レートの話、韓国政府の財政の話であって、ソウルの市民の暮らしが深刻になっているわけではない。市民は、きちんとした服装をして、仕事や勉強に精を出し、ちゃんと食事もとっている。半世紀ほど前には、日本でも韓国でも、食べ物や住宅が極端に足りない時代があった。それにくらべれば現在は天国である。
 南北に分断されている政治的な関係が崩壊したら本当にたいへんなことになるだろうと思っているが、経済危機は、いずれ乗り切ることができるだろうと信じている。
 4月の韓日戦を見にソウルに行ったとき、市の中心部からスタジアムに行く地下鉄に乗ったら、前に座っていた男の学生さんが席を譲ってくれた。
 試合が終わってスタジアムから市内に戻るときには、女子学生が同じように席を譲ってくれた。
 外国人に対して親切にしてくれたのか、髪がだいぶ白くなってきたから敬老精神で大事にしてくれたのかは分からない。
 いずれにしても、とても気持ちのいい出来事だった。「カムサムニダ(ありがとう)」と礼を言って、ご好意に甘えた。
 このような若者が育っているのだから、この国の未来は明るいと思う。
 ワールドカップで大切なのは、お金でもなければ、施設でもない。
 人と人との関係をたいせつにする暖かい心である。


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