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サッカーマガジン 1998年4月22日号
ビバ!サッカー

雨中の日韓戦の収穫

 ソウルで行なわれた韓国対日本の試合は、両方のチームにとってワールドカップへのテストだった。日本側には若い新戦力を試してみたいという狙いがあり、韓国側にはベストメンバーを組んで勝っておきたいという気持ちがあった。2−1で韓国の勝ちという結果はまずまずだった。

☆両監督の狙いは!
 ぴっちゃん、ぴっちやん、ぴっちゃんと冷たい雨が記者席の机をたたいていた。4月1日の夜、ソウルのオリンピック・スタジアムである。
 日本では桜が満開だったというのに0度に近い寒さである。用心して持っていった羽毛服が役には立ったけれど、屋根のある記者席の最上段にあがって立ったまま人びとの隙間から、身をすくめるようにして試合をのぞき見した。
 「こんな悪条件のなかで試合をして、どんな意味があるのだろう」とちらりと思ったりもした。
 岡田武史監督にとっても、チャ・ボンクン(車範根)監督にとっても、ほんとは「やりたくない」試合だったのではないか。フランスのワールドカップで対戦する相手と似た欧州や南米のチームとならともかく、この時期に隣同士の国で試合をしても練習としての意味は少ない。悪条件のなかで、選手にけがでもされてはたいへんである。
 でも、決まっていたことなので、やらないわけにはいかない。そこで双方とも何か狙いを作って、この試合に臨んだに違いない。
 岡田監督は、若い新戦力を、この試合で使ってみることにした。無理して勝利にこだわる必要はない、という考えである。
 チャ・ボンクン監督は、欧州や日本のリーグに行っている選手も呼び返してベストメンバーで戦うことにした。地元での試合だし、ここのところ日本には2連敗しているので勝ってチームとファンの士気を盛り上げる必要があったからである。

☆新人テストの成果は?
 日本は17歳の市川大祐を守備ラインの右サイドに起用した。日本代表としての公式戦出場では史上最年少だということだ。
 結果としては「なかなか良くやった」と思う。とくに攻撃参加への飛び出しがいい。判断がすばやく、チャンスだと思ったときは、思い切りよく前線に走り出る。大胆でスピードがある。前半には、いい形を何度も作り出していた。全体を見渡して逆サイドに大きく振るような判断力は見られなかったが、これは今後の課題だろう。
 守りの方は、当たり前だけど、経験不足だった。韓国のすばやく、抜け目のない動きに、間合いを詰めそこなう場面が、目に付いた。国際試合の速さと駆け引きに慣れるには、もう少し機会と時間が必要だ。
 評判の新人、18歳の小野伸二は後半20分に野人岡野といっしょに交代出場した。Jリーグのレッズのコンビでプレーさせて、日本代表初登場の気持ちの負担を軽くしてやろうという配慮だろう。狙いどおり、岡野にあざやかなスルーパスを出した場面があった。
 そのあと乱戦模様になったので、十分に良さを発揮することはできなかったが、素質の一端は見せてくれた。
 岡田監督が、この時期に新人をテストすることに、ぼくは疑問を持っていた。フランスで実際に使うためには、国際試合の経験が決定的に足りないと思ったからである。
 市川も小野も、ワールドカップの本番で使うのは難しいと思う。しかし素質は十分である。

☆守備ラインのできは?
 新人テストのほかにも、いろいろなポイントがあった。
 守りのリーダーの井原が、腰を痛めて前半26分に退場した。代わりに小村が入って、守備ラインの中央のコンビは小村と秋田になった。
 井原は、フランスで欠くことのできない存在である。ここで、けががひどくならないうちに、さっと引っ込んだのはいい。そのために、はからずも「井原がいないときの守備ライン」をテストすることができた。
 韓国が、かなり攻撃的に激しく仕掛けてきたにもかかわらず、日本の4人の守備ラインは、なんとか、しのぐことができた。井原のいないときのラインも試してみることができた。これは収穫の一つである。
 日本の最初の失点は前半40分、韓国のスローインからの攻めである。このときはボランチの山口が下がりすぎて、韓国の中盤のキ厶・トグン(金都根)をフリーにしたのが崩れの原因になった。
 日本は後半16分に、中田のミドルシュートに中山が突っ込んで同点。これで引き分ければ良かったのだが、韓国は28分に決勝点をあげた。
 この韓国の決勝点のときは、相馬がけがをして相手ゴール近くで倒れたままになっていて、守りが手薄になっていた。その間、3分くらいあったのだから、日本はボールをけり出すなどの手を打って時間を稼ぎ、守りの態勢を立て直すべきだった。
 「井原がいれば、気が付いていただろうが……」というのは試合後の岡田監督の話である。守備面では、収穫も反省点もあった。


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