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サッカーマガジン 1998年4月8日号
ビバ!サッカー

ダイナスティカップでの中国

 ダイナスティカップは、代表チームによる東アジアのナンバーワンを争う狙いの大会である。3月に日本で開かれた98年大会(第4回)は、日本、中国、韓国の3すくみで、得失点差で日本の優勝になったが、内容の良かったのは、イギリス人の監督に率いられた中国だった。

☆中国は変わった!
 ダイナスティカップの最終日に日本が中国に0対2で敗れた。「当然、勝つと思ってたんだが、どうしたのかね」と、サッカーについて、それほど詳しくない友人たちに、よく聞かれる。答えは前号に書いたとおり。
 岡田監督がワールドカップ本番へのテストの一つとして、守備を厚くする新しい布陣を試して失敗したからである。多くの人を失望させたのは、よろしくない。入場料を取り、テレビで多くの人に見てもらう試合は、真剣に勝負をかけて行なうべきである。
 とはいえ「まともに取り組んでいれば日本の楽勝だったのか」といわれれば、そうとはいえない。今回の中国代表は、なかなかいいチームだった。得失点差で日本は辛うじて優勝したが、中国も優勝してもおかしくない力を持っていた。日本が変形布陣を試みなければ、エキサイティングな試合になっていただろう。
 中国のサッカーは、これまで「眠れる獅子(ライオン)」だった。力はあるのだが、半分眠っているので本当の力を出せなかった。本当の力を出せなかった一つの理由は国が大きすぎるためである。
 中国は10億人以上の人口を持ち、サッカーが、もっとも大衆的なスポーツである。だからタレントには、こと欠かないはずだが、国が広いだけに代表チームをまとめるのは容易でない。南の広東には広東の、北の遼寧には遼寧のサッカーがある。それを一つにまとめるのは難しい。
 ところが、今回のダイナスティカップでは、中国は変わっていた。

☆姿のいい布陣
 日本に勝ったあとの記者会見で、中国代表チームのロバート・ホートン監督は「シェイプが良くなった」という言葉を繰り返した。ホートン監督はイギリス人である。中国が外国人監督を受け入れたことが、中国が変わった大きな原因だろう。
 「シェイプが良くなった」というのを、記者会見で通訳の人は「形が良くなった」と訳した。ぼくは「シェイプ」を「姿」と訳したい。最近「シェイピング」などという言葉が日本語として、よく使われている。主として女性が、リズム体操などをして、すらりと、かっこいい体型、つまり姿(すがた)を作ることである。
  ホートン監督が「シェイプが良くなった」というのは、チーム全体の「かっこう」が良くなった、ということだろう。もう少し具体的に「布陣のバランスが良くなった」と言ってもいい。
 守備ラインについていえば、これまでの中国チームは、マンツーマンの守りを基本にしていた。
 ところが今回は、ベテランの范志毅を中心に4人のディフェンダーによるラインディフェンスを組んだ。もう一人のセンターバックは若手の張恩華である。その前に2人の守備的中盤(ボランチ)がいた。
 両サイドバックは、積極的に攻めに出る。左サイドの孫継海はドリブルが得意である。右サイドの謝峰はスピードがある。2人が攻めに出たあとはボランチの朱hと馬明宇がカバーした。この守りのバランスが非常に良かった。

☆外国人監督の功績
 中盤の攻撃的プレーヤーは右が姚夏、左が呉承瑛で、どちらも若手である。それぞれ両サイドに張りつくように出ていて、ウイング・プレーヤーのようだった。これはサイドからの進出による攻撃を狙うとともに。日本の両翼の名良橋と相馬の進出をチェックする働きをしていた。これも姿のいい配置なのだろう。
 攻撃的中盤プレーヤーが内側に入るとサイドバックが進出し、守備的な中盤プレーヤーが守りのスペースをカバーした。姿のいい布陣が柔軟に機能した。
 トップは身長1メートル86の黎兵と1メートル76の胡雲峰である。長身の黎兵が2点をあげた。
 攻撃は、速さと技巧のあるドリブルが一つの武器だった。これは、もともと中国のサッカーの得意ワザである。後半に日本が反撃を焦ってくると、後方から日本の守備ツインの裏側をつく長いパスで脅かした。これも、なかなか巧みだった。
 中国は変わった。イギリスからホートン監督を招いて3カ月だというのに、ずいぶん良くなっている。
 中国はもともとサッカーでも大きな可能性を秘めていた。ただ国が広すぎるので、うまくまとめるのは難しかった。今回は、ワールドカップ予選に負けたあと外国人監督を入れたのが良かったのではないか。
 日本は体格、体力では劣るが、組織力が武器である。韓国は体力と頑張りが伝統である。三つの国に、それぞれ特徴がある。これからの東アジアのサッカーの発展が楽しみになってきた。


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