アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 1998年4月1日号
ビバ!サッカー

続ダイナスティカップでのテスト

 日本代表チームは3月のダイナスティカップで、いろいろなテストをした。第1戦と第2戦では、その試みを「なるほど」と思ったのだが、最後の中国戦での守備的な布陣は納得がいかなかった。結果は0対2の完敗。岡田監督はなにか考え違いをしているのではないか。

☆中国に完敗、でも優勝
 ダイナスティカップは、岡田監督にとっては、やりにくい大会だっただろう。
 6月のフランス大会に向けてのチーム作りのために、いろいろテストをしてみたい。しかし地元の日本で開かれる大会で、東アジアのライバルたちが相手だから、優勝を狙わなければならない。テストと優勝のバランスをとりながら、用兵と作戦を考える必要があった。
 第1戦で、いちばんのライバルの韓国に2対1で競り勝ったので、少しは気が軽くなって、あとはのびのびとやれるだろうと思ったのだが、結果はそうはいかなかった。第2戦で香港に5対1で勝ったのはよかったが、最終戦では中国に0対2の完敗。ワールドカップに向けてのテストが目的だとすれば、勝敗をどうのこうのいう必要はないのだが、テストとしても内容に疑問があった。
 中国に負けたけれども、優勝はした。日本、中国、韓国が2勝1敗で並んだが、総得点と総失点の差で日本が上回ったからである。
しかし、その得失点差も、あまり自慢できたものじゃない。
 最終日の第1試合で、韓国が香港に非常にへたな試合をして1対0で辛うじて勝ったのに、まず救われたもので、韓国が実力どおり大勝していたら日本の優勝はなかった。
 また第2試合で中国が後半32分のPKを外したのにも救われた。これが決まって3対0になっていれば、得失点差で中国の優勝だった。
 つまり、あまり内容のない、喜べない優勝だった。

☆3ボランチは失敗
 岡田監督は、中国との試合で「守りのサッカーを試す」つもりだったという。そのために、ちょっと特殊な布陣をした。山口と服部を守備的な中盤、いわゆる「ボランチ」に使い、さらに名波を左サイドで下げてきた。もう一人の中盤の中田だけが中央やや右寄りで前方にいた。
 菱形でも、四角形でもない、特殊な中盤の形である。 
 この布陣で守りを固めることになるのだろうか。 
 新聞などには「ボランチ3人のシステム」と発表されていたが、ボランチは3人もいらない。守備ツインの前面で敵の攻めをチェックするのが、ボランチの役目だが、この役は1人か2人でいい。 
 敵がまっすぐに攻め込んできた場合は、2人のボランチがいれば、右から来ても、左から来ても対応できる。ボランチをうまく守備ラインにカバーに入れることができれば1人でも十分だ。 
 敵がサイドチェンジで大きく振って来た場合は、ボールが空中を飛んでいる間に、カバーリングの態勢を整えることができる。だから守備ラインの前面に3人も配置する必要はない。 
 ボランチ3人のシステムのために攻撃の起点である中田は、中盤で孤立することになった。これが中国戦に完敗した最大の原因だと思う。 
 守りに下がる人数を多くしても必ずしも守りも強化したことにはならない。岡田監督が「3人ボランチ」で守備を強化できると考えたのなら「それは違うよ」と言いたい。

☆布陣は相手によって
 岡田監督はワールドカップ予選の途中で日本代表チームを引き継いだとき、中盤のトップに北沢を復帰させた。
 ダイナスティカップの第2戦では、ここに増田を起用し、また平野も交代出場で使った。ところが中国との試合では、3ボランチを採用したために、このポジションは空白となった。中田が孤立したのは、そのためであり、それが完敗の原因であると思う。
 「ワールドカップ本番のためのテストだから負けたっていい」という立場に立てば、それでもいい。「うまくいかなかった、だから本番では使わない」ですむからである。
 しかし、ここは地元開催の大会だから、すっきり戦って優勝しておくべき場合だった。今後のチームの士気のためにも完敗はいけない。
 もう一つ、こちらの方が重要なポイントだと思うのだが、ワールドカップ本番で対戦するアルゼンチンあるいはクロアチアを想定して、岡田監督が中国戦を戦ったのだとしたら、これは大きな見当違いである。
 第一に、今回の中国はかなり強いチームではあったが、アルゼンチンあるいはクロアチアとは、まったく違うタイプである。中国を相手に本番のシミュレーションをするのは無理である。
 第二に、システムないし戦法は相手によって選ぶものであり、中国と戦うときには、中国に勝つための戦法を取るべきである。3ボランチが中国に勝つための戦法ではなかったことは、試合の内容と結果が証明している。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ