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サッカーマガジン 1998年3月18日号
ビバ!サッカー

サッカー・メディアの経済学

 ブームのワールドカップと曲がり角のJリーグ――。今年は、日本のサッカーの将来がかかっている年だと思う。そんななかで5年続いていたサッカー専門の週刊新聞が休刊した。愛読していただけに、もうちょっと頑張れば息を吹き返せたのではないかとも思ったのだが……。

☆ある週刊紙の休刊
 毎週、郵送してもらっていた、その週刊紙に、突然、付箋がついていた。「週刊誌」ではなく『週刊紙』だ。つまり毎週1回の新聞である。
 付箋は「休刊のお知らせ」だった。追い掛けるようにして、編集長の友人から「はがき」が来た。
 「何とかここまで頑張ってきましたが、ついに休刊ということになりました。残念ですが……。日本サッカーは今、追い風、またの機会をとらえて再発行を、と考えております」
 うーむ。まったく残念だ。
 その週刊新聞は「ザ・サッカー・ウイークリー」(株式会社RAPARA)である。タブロイド版8ページで全ページがカラー印刷。迫力のある写真を使い、1週間のサッカー情報がコンパクトにまとめられていたので、非常に便利だった。
 友人の編集長は、一流スポーツ新聞のベテラン記者だったので人脈が広く、われわれサッカー記者仲間が、みな協力していた。サッカーの記録や写真は、おそらく、そのスポーツ新聞社が提供していたのだろうと思う。だから内容も信頼できた。
 しかし、いいものが残るとは限らないのが世の習いである。ビジネスの世界は厳しいものだ。
 こういう狭い範囲の読者を対象とする新聞は、いいものを作ることはできても、売るのがたいへんである。新聞だから書店には置いてもらえない。発行部数が非常に多ければ、ふつうの新聞の販売店に委託したり、駅のキオスクに置いてもらう手もあるが専門紙では難しい。

☆スポンサーの撤退?
 財源としては、販売の売り上げよりも、広告スポンサーに頼る手があるが、これにも条件がある。
 第一に、ある程度は読者がついていることが必要である。つまり発行部数と実売部数に応じて広告収入が決まってくる。
 第二に、広告の対象にしている消費者と刊行物の読者が一致していなくてはならない。北極近くに住むイヌイット(エスキモー)に冷蔵庫の広告をしても効果はない。
 第三に、刊行物の内容が、スポンサーのイメージに合っていなくてはならない。この場合は、サッカーのイメージが、スポンサーのイメージに合っていなくてはならない。
 サッカー専門新聞の場合は、大きなスポンサーをとるには、販売部数が不十分だろうと思う。サッカーファンは多いから、配布の方法があれば、かなりの部数を出せるだろうが、この種のものは全国的に配る方法を見いだすのが難しい。
 サッカーファンを消費者として対象にできる広告主は、まずスポーツ用品関係だが、スポーツ用品業界は競争が激しくて、景気が悪いという話である。
 それでも、なんとか続いてきたのは、サッカーのよいイメージを利用しようとするスポンサーが付いてくれたからではないか。
 子どもたちのサッカー人口が増え続けているところに、Jリーグ・ブームがきた。明るく、元気な、大衆的なスポーツのイメージはよかった。
 そういうスポンサーも撤退したのだろうか。

☆Jリーグのイメージ
 つまるところ、スポンサーの撤退には、二つの原因である。
 一つは消費の低迷による不景気の長期化である。米国は貿易赤字を防ぐために、日本に対して「輸出ばかりしないで国内でものを売れ」と言ってきているが、日本人としては、買おうと思っても、買いたいものがあまりない。
 舗装道路の整備された日本では必要のない四輪駆動の自動車を無理矢理買わされているが、そんなことには限度がある。それでスポンサーの方も、不景気になる。
 サッカーの新聞雑誌こそは、ファンにとっては買いたいものだが、これが買いにくい。大量流通、大量消費の社会では、専門性の強いものを、うまく流通させる方法がない。
 もう一つの問題は、Jリーグのイメージ・ダウンである。サッカーにとっては、こちらの方が重要だ。
 5年前に、かなりの無理をしてJリーグがスタートした。
 予想をはるかに上回る人気になって、いろいろな企業がブームに乗り遅れまいと競って参入してきた。
 しかし「ブームは3年で終わり」が定説である。定説どおり、3年目からテレビ放映の減少、観客数の減少が始まった。
 そのうえに、Jリーグをスター卜させたときの強引なやり方の反動が加わった。
 いま、Jリーグのイメージは、実態以上に悪くなっている。ワールドカップ出場は、それを打ち消すほどの追い風ではない。
 Jリーグの立て直しが、いま、いちばんの課題ではないか。


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