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サッカーマガジン 1997年12月31日号
ビバ!サッカー

マルセイユの幸運!

 マルセイユで行なわれたフランス・ワールドカップの抽選で、日本はアルゼンチンと当たることになった。これは非常に楽しみだ。日本代表がワールドカップの優勝候補と真剣勝負でぶつかる機会はめったにない。岡田武史監督がどういう対策をとるかに注目したい。

☆目標はまず1勝
 無知の強みというかね、こわいもの知らずというかね、日本がワールドカップに出て、どんどん勝ち進んでいけるような新聞や雑誌の記事を読むと空恐ろしくなる。
 ワールドカップのレベルを知っていれば、初出揚の日本が1勝をあげることさえ非常に難しいことが分かるはずなんだけど…。
 キリンカップで欧州や南米の強豪と互角に戦っている。アトランタ・オリンピックではブラジルに勝っている。だからワールドカップでも欧州や南米の強豪と互角に戦えるはずだ――と思うのは幻想である。
 親善試合やオリンピックとワールドカップは、まったく違う。ワールドカップには、世界の選りすぐりのプロフェッショナルが、まなじりを決して登場する。ここでは、いいプレーを見せることよりも、石にかじりついてでも勝つことを優先する。エキシビションと真剣勝負の違いがある。
 そういうわけで、客観的にみればワールドカップの決勝大会で1勝をあげることも、そんなに簡単ではない。
 とはいえ、アジア予選に勝って出場権を得たからには、次の目標は、まず一つ勝つことである。これは現在の日本の力からみて夢のような目標ではない。各グルーブのなかに一つは互角に戦える相手があるはずだからである。
 次には、グループリーグを突破して決勝トーナメントに進出することが目標になる。これは組み合わせに恵まれないと難しい。

☆恵まれた組み合わせ
 12月4日にマルセイユで行なわれた組み合わせ抽選の結果は、日本にとって恵まれたものになった。
 岡田監督は「どんな組み合わせでも、決勝トーナメント進出を狙うつもりだった」という。しかし、現実には幸運も必要である。
 恵まれたとはいっても、もちろん比較的の話である。決勝大会に進出するほどの国で、日本が楽に勝てる相手はどこもない。日本と同じ組に入った他の国は「日本と同じ組で恵まれた」と思っているに違いない。
 日本は最初にアルゼンチンと当たることになった。
 これがまず幸運だったと思う。
 アルゼンチンは優勝候補である。しかし、どの組に入っても、優勝候補が一つずつシードされているので強豪と当たるのを避けて通ることはできない。
 シードされている国は、欧州か南米である。そのなかで、南米のほうが日本にとっては相性がいい。
 欧州にしても南米にしても、日本は胸を借りるつもりで、どーんとぶつかるしかない立場である。
 相手が曙のような大男の横綱だと、どーんとぶつかったとたんに、はじき飛ばされてしまう。だからドイツのような体力にものをいわせる強豪よりも、アルゼンチンのようなテクニックに自信のある相手のほうが、手を打つ余地がある。
 「どーんとぶつかれる強豪」と第1戦で当たるのはいい。へたに「まず1勝を」と色気を出せるような舞台ではないからである。

☆アルゼンチンと勝負だ! 
 そういうわけで、6月14日にツールーズで行なわれるアルゼンチンとの試合が「勝負」だと思う。 
 まともに、ぶつかって勝てる相手ではない。しかし、まともにぶつかるしか方法はない。 
 第1戦でぶつかるのもいい。 
 アルゼンチンは優勝を狙っている。1カ月にわたる戦いのなかで、優勝を狙うチームが、第1戦にコンディションのピークをもっていくことはない。ふつうは、準決勝あたりにトップ・コンディションになるように調整するものである。グループリーグの第1戦は「自分自身の調子を見る」試合になるはずである。 
 一方の日本は1戦必勝しかない。相手がどこであろうと、第1戦にピークを持ってやって勝負することになる、だから、強敵と最初に当たるほうがいい。 
 第2戦は6月20日にナントでクロアチアと対戦する。 
 ヨーロッパとの対戦も避けて通ることはできないが、ここでも技巧派と当たるのは幸運である。体格勝負あるいは体力勝負では、現在の日本のレベルでは勝ち目は薄い。しかし技巧派相手にしのぐことは、可能性がありそうである。 
 ただし、アルゼンチンにしろクロアチアにしろ、個人、個人のテクニックの「すばやさ」は超一流である。相手の「はやさ」をどう食い止めるかが、岡田監督の手腕の見せどころになる。
 1次リーグの最後は6月26日、リヨンで、相手は中米のジャマイカである。実力は日本と互角だろう。策の立てようがある相手と最後に当るのも幸運である。


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