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サッカーマガジン 1997年12月17日号
ビバ!サッカー

岡田監督の続投を支持する

 ワールドカップへ向けて、日本代表チームは岡田武史監督が引き続き指揮をとることになった。成果を残し、実力を示した監督を変える理由はない。日本に他に人材はいない。フランス大会まで、あと半年。一からやり直す時間はない。岡田監督の続投を支持する。

☆「実績」は不十分だが
 岡田監督の任期が11月末で切れた。日本サッカー協会の強化委員会は11月25日に次の監督に岡田監督を推薦し、理事会は27日に岡田監督と再契約をすることを決めた。ぼくも岡田監督の続投を支持する。
 岡田監督の人気は「一夜明けたらスターになっていた」という感じである。アジア最終予選のプレーオフでイランに勝った翌日から、マスコミは岡田監督を救世主の到来のように持ち上げた。これは異常なフィーバーだった。
 岡田監督の「実績」を、ぼくは、このフィーバーほどには評価していない。最終予選の半ばで加茂前監督のあとを引き継いでコーチから昇格したあと、本当に「勝った」といえるのは最後のイラン戦だけである。
 遠征途中に引き継いだばかりのウズベキスタンとの引き分けはともかく、日本へ帰ってからのUAE(アラブ首長国連邦)との引き分けは、勝つべき勝負に勝てなかったという点で大きなマイナスである。
 そのあとの韓国、カザフスタン戦の連勝は、相手にはムキになって勝負する必要がない試合だったから、高くは評価できない。
 最後のイラン戦の勝利だけが「実績」といえるものだが、相手のイランは監督が交代したばかりで、チームの状態は本物ではなかった。先行しながら一度は逆転され、やっと同点に追い付いて延長終了間ぎわのVゴールで、やっと勝った。しかも、ホーム・アンド・アウェーではない1発勝負である。冷静に見れば「ラッキーだった」というほかはない。

☆「実力」を評価する
 岡田監督のケースに限っては、イランに勝ったという「実績」よりも、最終予選の途中で監督に昇格したあとに示した指揮官としての「実力」を評価したい。
 第一に、がたがたになりかかっていたチームを建て直し、苦しい2引き分けのあとも、ともかく勝負に持ち込める状態にもっていったのがよかった。選手たちの信頼を得ることのできる力量があることを示した。
 第二に、選手の起用に適切な判断と決断力のあることを示した。北沢と中山を復帰させ、大スター扱いだったカズを、イラン戦の途中で交代させた。ぼくが「こうすべきだ」と考えていたとおりの用兵だった。
 第三に、戦術的にも正しい選択をした。システムを4DFに戻し、守備ラインでは井原を信頼し、中盤では中田の技能を復活させ、前線ではカズだけが頼りでないことを示した。 
 もちろん、結果としてフランスへの出場権を得たから、このような監督としての「実力」を評価できるわけである。いかに適切な措置をしても負ければ誰も認めない。「勝てば官軍」ではあるが、これは勝負師の宿命である。
 ともあれ、岡田監督は「勝った」のだ。だから、その「実力」を認めてやっていい。
 日本人の監督で、これだけの「実力」を示した人物は、ほかにはいない。残念ながらJリーグで実績を残しているのは、みな外国人である。 
 日本人で代表監督になることのできる資格があるのは、岡田武史のほかにはいない。

☆全権を委ねよう!
 「日本人に人材はいないのだから外国人監督で」という声もあった。
 最終予選の前に「加茂監督ではダメだからジーコを監督に」と主張した週刊誌があったし、岡田コーチが監督に昇格したときも「外国人のアドバイザーをつけるべきだ」と主張した人がいた。
 イランに勝って「岡田続投」の声が圧倒的になったあとでさえも「監督はブラジルから招いて、岡田はコーチとして勉強させたほうがいい」という声があった。そういう趣旨の特集をしようと、ぼくのところに電話をかけてきた週刊誌がある。
 ぼくは反対である。
 ブラジルにも、ヨーロッパにも実績と実力を備えた指導者はいる。そういう人物を招いて任せるのも、一つの選択肢ではある。
 しかし、今回のケースについては、これは適当でない。
 フランス大会まで、時間は半年しかない。加茂監督と岡田監督が、これまでに積み上げてきたものを、ご破算にして、新しく作り直す時間的余裕はない。加茂監督の遺産を継承して岡田監督の新しいアイディアを生かすのがベストである。
 外国人の監督に岡田コーチを付けるとか、岡田監督に外国人のアドバイザーを付けるというアイディアは論外である。 
 代表チームの監督には全権を委ねなければならない。任されなければ「実力」を発揮できない。 
 岡田監督を信頼し、強化委員会も妙な口出しをしないで、あと半年を任せるべきだと、ぼくは思う。


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