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サッカーマガジン 1997年11月26日号
ビバ!サッカー

韓日戦勝利の評価は?

 韓国に勝ったからといって手放しで喜ぶわけにはいかなかった。日本はこれでフランスへの切符を手に入れたわけではない。また韓国を上回る実力を証明したわけではない。ワールドカップ予選の日韓第2戦は日本にとっては真剣勝負だったが、韓国にとっては親善試合だった。

☆ソウル競技場の雰囲気
 ソウルでやれば韓日戦、東京でやれば日韓戦である。ホームチーム・ファースト。ここでは11月1日にソウル・オリンピック・スタジアムで行なわれたワールドカップ・アジア最終予選の試合を韓日戦と書くことにする。
 この韓日戦、日本が2対0で快勝したのは、もちろんよかった。翌日、UAE(アラブ首長国連邦)が地元でウズベキスタンと引き分けたので日本に自力でフランスへの道を切り開くチャンスがよみがえった。禍福はあざなえる縄のどとし。勝負はどう転ぶか分からないものである。
 フランスへの切符という点から見れば、韓日戦の日本の勝利は喜んでいいのだが、これで日本のサッカーの強さが証明されたと思うのは大間違いである。
 ソウルのスタジアムで試合を見ながら、そう思っていた。
 翌日の午前中、ソウルから関西空港に戻って日本の新聞を買ったら、どの新聞も大扱いで有頂天の喜びようである。「これでいいのかな」とちょっと心配になってきた。
 あの日、ソウルのスタジアムは、北側のゴール裏スタンドが日本の青に染まり、あとは韓国の赤一色に染まっていた。双方の歓声がこだましあい、警備の人たちが応援団同士の衝突をおそれて厳重に警備していた。
 しかし、南側の韓国応援団席には「いっしょにフランスへ行こう」と書いた英文の横幕と「2002年のワールドカップを韓・日の共同繁栄の契機に」と日本語と韓国語で書いた横幕が張り出されていた。

☆日韓新時代の象徴?
 この横幕を日韓新時代への象徴ととることもできるし、すでにフランスへの切符を手にした韓国のファンの余裕ととることもできる。
 日韓新時代についていえば、われわれはサッカーの熱狂のなかに過去の歴史を埋め込んでしまうべきではない。
 同時に若い世代が、こだわりなく新しい「共同繁栄」の時代に入っていこうとしているのであれば、そのことも、また喜びたい。
 それはそれとしで、サッカーのスポーツ的な側面から見れば、韓国の側の余裕がスタジアムに友好の雰囲気を作っていたのも事実だと思う。そして、日本が勝つことができたのを「実力どおり」と手放しでほめたたえることは、できないと思う。
 韓日戦が終わったあとの記者会見で、韓国の車範根監督に対して出た最初の質問は「わざと負けたのではないか」というものだった。
 車範根監督は、こう答えた。
 「われわれは正常に競技した。ファンの声援にこたえられなかったのは申しわけない。すでにフランスへの出場権を得ていることが、グラウンドで、わずかな隙を生んだかもしれない。日本は最後まで、がんばった。それが日本の勝因だろう」
 まったく、そのとおりだと思う。
 選手たちに「わざと負けろ」と要求することはフェアではないし、また、あの雰囲気のなかでは不可能である。日本の選手は真剣に懸命に挑んでくるのだから、韓国の選手もむきにならざるをえない。
 車範根監督にとって、できることは「正常に競技すること」だった。

☆親善試合と真剣勝負
 「正常に競技すること」は、のびのびと、お互いの長所が発揮できるような試合をすることである。それによって、サッカーのおもしろさを観客に味わってもらうことは親善試合では特に重要である。
 一方、タイトルをかけた真剣勝負では、場合によっては、自分たちのよさを犠牲にしても相手のよさを殺す必要がある。
 東京で9月28日に行なわれた日韓戦では、車範根監督は勝負にこだわって、その手を使った。中盤で名波に柳相鉄を、中田に張亨碩をつけて日本の攻撃の起点をつぶした。
 しかし第2戦の韓日戦では策を弄する必要はなかった。「正常に」戦えばよく、それほど結果を気にする必要はなかった。つまり、この試合は韓国にとっては親善試合と同じだった。
 日本にとっては、これは真剣勝負である。負ければ望みは完全に消えるが、勝てば希望をつなぐことができる。
 北沢を起用して中盤から前線へ進出させ、そのあとの空いたスペースを名波、中田が利用しやすいようにした。名波から相馬へのパスが生きて、相馬のアシストで開始1分と37分に日本が2点を取った。
 岡田監督の作戦は正しかった。日本の選手たちは、よく戦った。しかし、この勝利で日本のサッカーの優位を主張するわけにはいかない。
 アジアのトップレベルの実力差は紙一重である。「日韓共同繁栄」とともに、勝ったり負けたりは、これから長く続くだろうと思う。


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