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サッカーマガジン 1997年11月12日号
ビバ!サッカー

アジアの広さを考える

 ワールドカップ予選も終盤に入った。波乱万丈という感じで次から次へといろいろなことの起きた1カ月である。アジアの東の端にある日本が砂漠の国(アラブ首長国連邦)や新しい仲間である中央アジアの国々と行き来して、つくづくとアジアの広さを考えた。

☆JヴィレッジとUAE
 ワールドカップのアジア最終予選のために来日したUAE(アラブ首長国連邦)のチームは、試合の前に福島県のJヴィレッジで合宿した。東北電力の協力で完成したばかりのサッカーのトレーニング・センターである。
 「すばらしい施設を、なんで敵側に使わせるんだ。日本が使えばいいじゃないか」という意見もあったようだ。
 日本がアウェーの試合でUAEに行ったときは、あらかじめオマーンでキャンプをはった。狙いは近隣の国へ行って時差を調整し、砂漠の国の暑さに慣れることだった。今回のUAEにも同じような事情があったに違いない。早めにきて時差調整をし、日本の涼しい気候に慣れなければならない。東北地方の静かな環境で寒さになじむのも悪くないというわけである。日本のほうは、寒さには慣れているから、暖かいところでリラックスして練習したほうがいいので静岡で合宿していた。
 こういうホーム・アンド・アウェーの試合で、訪問チームの練習場はホームの側が準備するのが決まりである。しかしビジター側が自分で練習場を選ぶこともできる。
 日本がウズベキスタンに遠征したときは、地元のサッカー協会で用意してくれたグラウンドの芝生が良くなかったので、日本側でタシケント郊外のトラクター工場のスタジアムを借りて練習した。向こうの用意したグラウンドを使えばタダだが、トラクター競技場を借りる費用は、1回250ドルだった。

☆時差による影響
 時差調整をしよう、気候に慣れようというのは、アジアが広いからである。
 ヨーロッパには、国はたくさんあるが、面積はそう広くはない。時差もほとんどない。距離は飛行機で飛べば1、2時間である。
 南米大陸は面積としては、非常に広いが国と国との間の時差は、それほどない。南北に長い大陸だからである。地球は南北を軸に回転しているので、時差は東西に広がっていると大きくなる。
 ヨーロッパや南米にくらべると、アジアは東西にも広いし、南北にも長い。だから時差は問題である。
 とはいえ、今回、中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンに旅してみて、大きな違いは自然的条件ではないことに気が付いた。
 カザフスタンと日本との時差は、たった2時間だった。ウズベキスタンとの時差は4時間である。時差はその国の法律によって決まっているが、両国とも日本からは遠い国で、われわれにとっては、体感時差では両国の間で違いはない。
 4時間程度の時差は、それほど大きな影響があるとは思えなかった。とくに日本から遠征する場合は、東から西への旅行なので時差の影響は少ない。どういうわけか時差の影響は西から東へ行く場合のほうがはるかに大きい。科学的根拠があるかどうかは知らないが、これはぼくが長年の海外旅行経験によって体得した真理である。
 西から東へ旅行して来日したUAEは時差の影響を受けただろう。

☆交流のための制約
 サッカーの交流をする場合の問題点は、時差よりも旅行時間である。
 中央アジアへ行くのに、今のところ日本からの直航便はない。今回の日本代表チームの遠征は日本航空のチャーター便だったが、行きはモスクワ空港で給油してアルマトイまで15時間かかった。帰りはタシケントから直行だったが、経路としてはモスクワ上空を飛ぶので12時間かかった。
 地球儀を見ると、まっすぐ飛べば、もっと近いように思える。ところが直行だと、6、7000メートル級の山脈を越えたり、ロシア語の航空管制圏を通過したりする事情があるので、現在のところはモスクワ経由にならざるをえないということである。距離は自然的制約というより政治的、技術的制約である。
 気候の違いは、今回の中央アジアの場合は問題ではなかった。 10月のカザフスタンとウズベキスタンは、日本の秋とあまり変わらなかった。ただし、夏は気温40度以上で猛烈に暑く、冬は零下30度にもなって猛烈に寒いとのことである。こっちのほうは季節的制約を免れることは難しい。
 そういうようなわけで、今回のワールドカップ予選を通じて、アジアのサッカー交流について、いろいろ考えるところがあった。アジアが東西南北に広すぎて、交流には困離が多いことは事実である。
 けれども、サッカーを通じて「アジアは一なり」と岡倉天心なみに叫びたいという気持ちも高まった。距離は遠くても、文化的には親しみやすい。これも、また本当である。


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