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サッカーマガジン 1997年11月5日号
ビバ!サッカー

岡田新監督の手腕は?

 日本代表チームとともに回った中央アジア2週間の旅が終わった。ワールドカップ予選の試合は敵地で2引き分け、結果は非常に残念だった。旅の途中で加茂監督解任のドラマがあり、ウズベキスタン戦は岡田コーチが昇格して指揮をとった。新監督の手腕に注目が集まったが……。

☆的中した三つの心配
 ワールドカップ・アジア最終予選の展開は、不幸なことに、ぼくの心配どおりになった。カザフスタンで引き分けたあと、タシケントに移動して、10月11日に行なわれたウズベキスタンとの試合も1対1の引き分けである。
 最終予選の前にビバ!サッカーにも書いたように、ぼくの心配は三つあった。
 第一に、予選の組み分けで有利になったと楽観論が出たのを心配した。B組では、アラブの国はUAE(アラブ首長国連邦)だけになったので「有利だ」という意見がマスコミに出たのだが、最終予選に進出した国のレベルに、それほど大きな差はない。最近の対戦成績だけで楽観していては危ないぞ、と警告したわけである。
 第二に、中央アジアの2カ国に遠征してのアウェーの試合がカギになるだろうと予想したことである。ウズベキスタンとの過去の対戦成績から判断して、中央アジアの2カ国を軽くみては足をすくわれる心配がある。とくに相手のホームでは油断できないぞ、と書いでおいたのだが、そのとおりになった。
 第三に、アウェーでも引き分けばかりではダメだと指摘しておいたのだが、結果はUAEを含めてアウェー3連続引き分けとなった。今回は勝ち点が勝ちは3、引き分けは1で勝ちと引き分けの差が大きい。3引き分けは致命傷である。
 中央アジアでの試合で、ぼくの心配が三つとも的中したのは、実にくやしい。

☆ショック療法の効果は?
 タシケントで行なわれたウズベキスタンとの試合は、岡田武史新監督が指揮をとった。カザフスタンとの引き分けの夜に、日本サッカー協会が加茂周監督を解任し、岡田コーチを昇格させたからである。
 このショック療法は効果があっただろうか。
 選手の士気にかんしては、効果があったようである。タシケントに移ってからの練習ぶりを見ると、改めて「これはいかん」という気持ちになったようだった。
 試合でのプレーぶりも見違えるようだった。立ち上がりは闘志をあらわにして、相手のボールを取りにいった。ヘディングの競り合いも、ほとんどものにして、フィールドから燃え立つものが感じられた。
 しかし、結果は引き分けだった。前半の終わりごろにコーナーキックから点をとられ、後半の反撃も、組織的な攻めは実らなかった。同点に追い付いたのは終了間ぎわである。ロペス(呂比須)のヘディングがこぼれたのが、相手の守りのミスで、ころころと入った。 
 ロスタイムに入ってからのゴールでは、これまでに日本のほうが、なんども痛い目にあっている。時には日本が恵まれたっていい。また組織的でなかろうと相手のミスであろうとゴールはゴールである。引き分けは負けるよりはいい。
 しかし、勝たなければならない試合を幸運に恵まれて、やっと引き分けたのだから、岡田監督の指揮が成功したとはいえない。この点は厳しく評価しなければならない。

☆納得いく用兵だが…
 岡田監督の選手起用は、ぼくの考えに近かった。
 ロペスをベンチにおいて、後半の反撃のときに繰り出した。加茂監督が韓国との試合でロペスを先発させたのは疑問だと前に書いたが、今回はぼくの考えと同じ起用法だった。 
 岡田監督は、中田もベンチにおいて森島を先発させた。これも良かった。
 これまでの試合で中田はちょっとリズムが合わない感じだった。疲れているのなら一度、休ませるべきだと思っていた。労働量の多い森島を起用したのは、気合を入れ直すためにも適当だった。 
 リードされたあと、反撃のために後半はじめに森島に代えて中田を出し、同時に守りの斎藤を下げて攻めのロペスを出した。中田によって中盤からの組織的な攻めを作り、前線でロペスの高さを生かそうという狙いである。斎藤が抜けて守りのラインは4枚になる。リードした相手は攻めよりも守りに入ってくるから、4人のディフェンダーで十分しのげるはずである。 
 それでも、なかなか点が入らないので、残り10分を切ってから名波を下げて中西を入れた。これは長身の秋田を守備ラインから前線にあげて、なだれ込みを策そうという考えで、秋田の代わりに守りに中西を入れたのである。これは、どたん場の同点ゴールの伏線である。 
 というわけで、岡田監督の用兵は納得のいくものだったのだが、結果としては実らなかった。なぜ成功しなかったかは、改めて考えてみることにしよう。


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