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サッカーマガジン 1997年10月8日号
ビバ!サッカー

プロとボランティア

 「スポーツには家風がある」というのが持論である。サッカーにはサッカーの家風があり、陸上競技には陸上競技の家風がある。陸上競技の運営を経験する機会があったので、その家風の違いを改めて痛感した。一つのポイントは専門家とボランティアの関係だった。

☆陸上のボランティア
 ワールドカップ・アジア最終予選の日本対ウズベキスタン第1戦が行なわれた前日、同じ国立競技場でTOTO国際陸上を見た。サッカーを見るために東京へ行ったので、ついでに陸上競技も見学したのである。
 陸上競技とサッカーを続けて見て競技会の運営ぶりの違いに改めて気がついた。大まかにいえば、陸上競技はボランティア運営、サッカーはエージェント運営である。
 陸上競技の運営には、おおぜいの役員が動員されている。審判も種目ごとに、それぞれ何人も必要だし、たとえばハードルを運んだりするのにも人手が要る。そういう人たちはほとんどボランティアである。
 TOTO陸上では、かつて選手だったような人たちが、自主的に出てきて無報酬で協力していた。その人たちの熱心さにも、おおぜいのボランティアを動員できる日本の陸上競技連盟の組織力にも感心した。
 役員たちは、それぞれ手帳を持っていて、競技会に協力するたびに判を押してもらい、判がたくさん貯まると表彰されるのだそうである。将来の表彰と役員識別用に支給されるTシャツや帽子を集めるのが楽しみだということだった。
 これに対して、サッカーの国際競技会は、最近では、ほとんどプロの業者の手を借りている。報道関係者へのサービスは専門のエージェントが引き受けている。場内警備は警備保障会社のガードマンである。
 ボランティア運営がいいか、エージェント運営がいいか。これは考えてみる必要がある。

☆フラッシュ・クォーツ
 その次の週には福岡へ行った。陸上競技のIAAFグランプリ・ファイナルのお手伝いをするためである。
 このグランプリは世界各地で開かれる国際競技会のシリーズで、今年度は17回の競技会が行なわれた。福岡のファイナルはその最終回で、シリーズを通しての総合優勝もここで決まった。
 TOTO陸上は、外国人選手を招待しているが、日本陸上競技連盟が管轄する競技会である。一方、このグランプリ・ファイナルは国際陸上連盟(IAAF)の競技会である。 
 畑違いの陸上競技のお手伝いに駆り出されたのは、かつて新聞社のスポーツ記者だった経験を報道サービスに活用できるからで、担当したのは「フラッシュ・クォーツ」の運営だった。これは、各種目が終わるたびに優勝者などの談話をとり、それを、すばやく記者席やテレビ席に提供する仕事である。 
 陸上競技では、各種目がトラックやフィールドで次々に行なわれるので、取材記者はスタンドの報道席から離れられない。そこで代わりにインタビューして、その内容をブラウン管のディスプレーや印刷物で提供する必要があるわけである。 
 インタビュー担当はジャーナリスト出身の専門家で、スロバキア人、フィンランド人、イギリス人、それにぼくが加わって総勢4人だった。 
 各種目の優勝者には、いろいろな国の人がいるから、インタビューもいろいろな国の言葉でしなければならない。それを英語で報道陣に提供する仕組みである。

☆OBを活用しよう
 フラッシュ・インタビューをするには、スポーツ・ジャーナリストとしての経験と陸上競技についての知識、それに語学力が必要である。そういう人間はボランティアでは、なかなか求められない。したがって福岡の競技会でも、ヨーロッパから呼んだ3人は、これを仕事として世界を飛び回っている専門家だった。
 専門家が取材して英語で伝える内容をタイプしてコンピューターに入れるのは、日本の翻訳会社のプロの女性3人が担当した。これも専門的な技能を要するから素人のボランティアでは難しい。
 しかし、できあがったフラッシュ・クォーツの原稿を運び、印刷し、記者席に配ったのは地元から応募したボランティアだった。また、その一連の仕事を統括してくれたのは、これも陸上競技連盟のボランティアの役員だった。
 つまり、この一連の仕事はプロとボランティアの協力で行なわれた。ぼく自身は、その中間で仕事をした。自画自賛になるけど、なかなかうまくいったと思っている。
 スポーツの競技会の運営は、このように専門家の力を利用しながら、ボランティアが協力するのがいいんじゃないかと思う。
 日本の陸上競技会の運営はボランティアに頼りすぎている。サッカーの運営はプロに頼りすぎている。
 サッカーの場合は、プロの専門家を使いこなすと同時に、OBたちが国際競技会などの運営に協力できるようにして、人材をサッカー界につなぎ止めることが必要だと思う。


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