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サッカーマガジン 1997年10月15日号
ビバ!サッカー

アジアの決戦、さあヤマ場!

 ワールドカップ予選のアジア決戦が、中盤戦に入ろうとしている。日本と韓国のトップ争い――とみたいところだが、もちろん、まだ先は長いので、なんとも言えない。勝っておごらず、負けてくじけず、日本代表には最後までがんばって、と祈るような気持ちである。

☆UAEと引き分けの評価
 日本は初戦にホームでウズベキスタンに6対3で勝ったあと、第2戦はアウェーでUAE(アラブ首長国連邦)と引き分けた。「引き分けでよかった」というのが、日本のジャーナリズムのおおかたの評価のようである。ぼくも、いまは、そう思っている。
 実のところは、ぼくは「アウェーのUAE戦は勝ちにいくべきだ」と思っていた。
 アウェーの試合は「引き分けでいい」というのが常識だが、今回の予選は勝ち点のルールが違う。ふつうは勝ちが2ポイント、引き分けが1ポイントだが。今回の勝ちは3ポイントである。勝ちと引き分けでは2ポイント違う。これは大きい。アウェーの試合でも、どこかで勝っておかないと、ライバルに差をつけられる。
 日本にとってUAE戦はアウェーの初戦だから、ここで2ポイントを余分に稼いでおけば、あとの計算が楽になる。立ち上がり2連勝で、しかも強敵に敵地で勝ったとなれば、チームの意気もおおいにあがるだろう――と考えたわけである。
 しかし、テレビの宇宙中継を見ているうちに考えが変わってきた。ここは引き分けでいい、という気持ちになってきた。
 というのは、アブダビの気候が、あまりにも蒸し暑そうだったからである。あんな暑さのなかで無理することはない。なんとかしのいで、引き分けに持ち込めば十分である。
 というわけで、いまではUAEとの引き分けを評価している。

☆韓国戦を控えて
 暑さのなかでは、暑さのなかでの戦い方がある。マンツーマンの労働量で守り、あわただしくパスを回して走り回るサッカーでは体力が持たない。
 ゾーンの守りで相手のボールをからめ取り、じっくりとパスを回して、味方がボールをキープしている時間を長くする。機をみて瞬間的な速さとアイディアで勝負する。そういうサッカーが暑さ向きである。
 しかし、これは加茂監督のめざしているサッカーでない。また日本の選手の多くは、体質的にも瞬間的なスピードで勝負するのには向いていない。それに最近は、どの国でも、中盤の守りが厳しくなって、そうそう、のんびりしたサッカーはさせてくれない。
 というわけで、日本は暑さに向いたサッカーに急に切り替えることはできなかった。だから、酷暑のアブダビで、引き分けたのはまずまずだと思う。
 苦しい思いをして負けるのと、敵地で引き分けるのとでは気分が違う。その後の試合への士気に影響する。また、ここで体力を浪費しては次の試合に影響する。だから無理をしないほうがいい。
 この場合、次の試合は韓国戦である。9月28日の東京での対戦はホームではあるが、日本にとっては酷暑のアウェーから帰っての試合、韓国はホームで2連勝したあとだから日程的には日本が不利である。
 そういうふうに考えれば、アウェーのUAE戦は、酷暑のなかで体と心のスタミナを浪費してまで無理をすることはない、と思った。

☆中央アジアでは勝利を
 おそらく加茂監督の頭にも、同じような思いが駈けめぐっていただろう。
 もちろん、ホームだろうが、アウェーだろうが、勝てるのなら勝つに越したことはない。負けても引き分けとの差は1ポイントだ。他のアウェーの試合で勝って3ポイントを稼げば埋め合わせがつく。ここは「勝負に出たらどうか」という考えもあるだろう。
 UAEにもきわどい場面があったし、日本にも惜しいチャンスがあった。どちらが勝ってもおかしくはない、好試合だった。しかし後半、森島、本田を投入して守りに入った加茂監督の用兵は正解だった。
 後半30分のゴールがオフサイドで幻になったのは残念だった。「ほんとは日本の勝ちだよ」と言いたいのだが、これは敵地での試合だ。引き分けでいい。
 さて、中盤戦以降の戦いである。
 日本と韓国の対戦には、時差と気候の点で、ホームもアウェーも、あまり関係ない。ここは実力勝負で互角の成績を想定しておけばいい。
 韓国には、10月4日に強敵UAEとの対戦がホームである。そのあと中央アジアでのアウェーの試合が続いている。残り日程は楽ではない。
 日本も中央アジアへの遠征が続いている。ここでカザフスタンとウズベキスタンに対して勝ち点3を狙って、勝ちにいくことになるだろうと思う。
 シルクロードの未知の国での戦いが、日韓双方にとって重要になるんじゃないか、と考えている。


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