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サッカーマガジン 1997年9月3日号

ビバ!サッカー

長居の日本−ブラジル戦

 ワールドカップのアジア最終予選を控えた日本代表チームが、8月13日に大阪の長居競技場でブラジル代表チームと試合をした。0対3という結果に失望した人も多かったかもしれないが、これはいろいろな意味でいい試合だった。ファンにとっても、日本代表にとっても…。

☆すばらしい大阪開催
  地下鉄の長居の駅で降りて、日の暮れかかった公園のなかを、スタジアムまでゆっくりと歩く。この気分がなかなかいい。ドイツのスタジアム周辺のようなムードである。
 若者も、年配の人も、子どもも、みなスタジアムの方へ向かって歩いていく。ブラジル人もいる。おそらく日本へ働きにきている人たちだろう。「さあ、サッカーを楽しもう」という気分にあふれている。
 この雰囲気が、セレッソ大阪の試合のときにもあれば、日本のサッカーは本物だ。そうなれば、2002年のワールドカップは大成功疑いなしである。
 日本代表対ブラジル代表という超一流のカードが、夏休みの大阪で開かれたのが良かった。
 国際試合でも、国内の試合でも、いいカード、あるいは重要なタイトルの試合は、ほとんど東京の国立競技場で行なわれている。その例を破って、世界チャンピオンのブラジルを迎えた試合を大阪で開いたのはすばらしい。
 しかも夏休みのナイターである。家族連れでも楽しめる。今回は満員札止めの人気で切符が買えないためにあきらめた子どもたちも多かったようだけれど、こういう試合が毎年開かれれば、関西の子どもたちの夏休みの大きな楽しみが増えることになる。
 ファンの99パーセントは、日本代表を応援するために来ていた。これもいい。5年くらい前までなら、世界一のブラジルを鑑賞するためにくるお客さんばかりだっただろう。

☆負けられないブラジル
 日本代表チームを応援するためにスタンドを埋めたファンは、0対3の完敗に、あるいは失望したかもしれない。親善試合だし、ブラジルにとっては遠征の試合である。100パーセントの力は出せないだろうから、ひょっとしたら日本にチャンスがあるかもと期待していた人が多かっただろう。だが、その期待はちょっと無理だった。
 ブラジルでは、サッカーの代表チームが負けることは、たとえ遠征の親善試合であっても許されない。なぜなら、この国ではサッカーは一種の宗教であって、神様の前で手を抜くことはできないからである。
 前回のワールドカップのあと、「ブラジルは45試合して1試合しか負けていない。日本で負けるわけにはいかないんだ」とドゥンガが言っていた。
 タイトルをかけた試合と親善試合では、戦い方を変えることはあるだろうが、結果については妥協できない背景が、ブラジルにはある。
 そういうブラジルを相手に、この時期に試合ができたのは、日本代表にとって非常に良かった。強い相手との国際試合の経験は、他の方法では得ることのできないものである。3失点も、いい経験だったと思う。
 「善戦」という結果を求めるのであれば、守りを固めて逆襲を狙う作戦に徹して、0対1あるいは1対2という試合もできたかもしれない。
 でも、日本が勝つのは無理だと思う。日本が先に1点を取れば、ブラジルは全力を挙げて2点を取りにくるだろう。それを防ぎ切る力は、いまの日本のサッカーにはない。

☆競り合いの個人技
 まともに戦えば、3失点は止むを得ない。それくらいの差は、いまの日本とブラジルの間にある。
 「日本は、まともな戦い方じゃなくて、5人の守備ラインが下がりっきりだったじゃないか。守りを固める作戦だったのじゃないのか」という人もいるだろう。
 たしかに、見た目には5人どころか中盤の底の2人も自陣に下がって守りに追われていた。
 その結果、守備ラインの前に、ほんの少しだけ空いたスペースができ、そこでブラジルのプレーヤーが一瞬フリーになり、その第2列からのシュートで点が入った。
 しかし、5人から7人も守りに下がったのは、守りを固める作戦ではなく、ブラジルの攻めに圧迫された結果である。
 日本のディフェンダーは、果敢に1対1に挑戦し、相手がボールをとる瞬間を狙って間合いを詰めて競り掛けた。ところがブラジルのプレーヤーは、ボールへの最初のタッチで競り掛けをかわし、2度目のタッチですばやく、的確に次の味方にパスをした。その繰り返しに圧迫されて、日本の守備ラインはずるずると下がることを余儀なくされたのだった。 
 つまり、競り合いの個人技でブラジルの方が優っていた。それが守備ラインが下がる原因となり、ひいては、第2列からのシュートを許す原因となった。
 これはワールドカップ予選へ向けて痛烈な経験になったと思う。だから0対3という結果も悪くなかったと考えている。


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