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サッカーマガジン 1997年8月27日号

ビバ!サッカー

H&Aのテレビ中継

 ワールドカップのアジア最終予選はホーム・アンド・アウェーになって「よかったな」と思っているのだが、アウェーの試合を見に行くのはたいへんである。せめてテレビで応援したいと思っているファンも多いだろうが、テレビ中継はどうなるのだろうか?

☆100人もの取材申請
 フランス・ワールドカップヘの切符をかけた戦いがホーム・アンド・アウェーになったので、日本のファンはホームの4試合は見ることができる。国立競技場の切符を手に入れるのは、ひょっとすると難しいかもしれないが、テレビ中継が行なわれることは確実だろう。
 アウェーの試合を見に行くのは、かなりたいへんである。UAE(アラブ首長国連邦)、カザフスタン、ウズベキスタン、韓国に、それぞれ出掛けるとすれば、旅費も時間も相当なものになる。
 韓国の場合は、お隣の国で交流も多いから問題はなさそうだが、その他の国についてはビザ(入国査証)をとるのも、そう簡単ではない。米国やヨーロッパの国に出掛けるときは、多くの国とビザ免除の取り決めがあるし、観光ビザなら簡単にとれるが、中央アジアのカザフスタンやウズベキスタンは、そうはいかない。かつては旧ソ連の一部だったので、国と国との交流の経験は浅い。
 というわけで、カザフスタンとウズベキスタンのビザをとるのは面倒な手続きがいる。でも、ぜひ現地で取材したいと思って、8月上旬に東京の日本サッカー協会で行なわれた報道関係者への渡航説明会に出掛けた。
 驚いたことに、およそ50人の記者やカメラマンが取材登録をしようと出席していた。説明会は2日に分けて行なわれ、ぼくが行ったのは初日だったが、2日目も同じくらいだとする100人もの報道陣が日本代表チームに付いていくことになる。

☆放映権と報道権
 中央アジア行きの手続きをしている人びとのなかには、テレビ局の人たちもいた。そこで「アウェーの試合のテレビ中継はどうなっているんだろうか」と気になってきた。
 オリンピックやワールドカップ決勝大会のような大きな国際スポーツ大会では、テレビ放映権は一つのテレビ局が独占し、他のテレビの取材は認めないのがふつうである。ニュース報道としては、放映権をもつテレビの映像を、たとえば3分以内というように限定して提供することになっている。
 したがって、多くの国では放映権を持たないテレビ局の人が取材に行くことはないのだが、日本のテレビ局は非常に熱心で放映権がなくてもニュース報道の取材は自局のスタッフでやりたがる。「報道の自由」が旗印で、試合の映像はとれなくても競技場の門の前や競技場外の選手の行動をリポートする。
 今回の予選のアウェーの試合も、同じように放映権を持たない局のスタッフが、同行取材を計画して申請しているのだろうかと想像した。
 友人が教えてくれた。
 「今回は中継の権利は複数のテレビ局が試合ごとに持つことになるらしい。放映する局のスタッフは、今回の申請とは別枠の人数になる。一方、その試合の放映はしないが他の試合の放映権を持つ局の人たちは、放映しない試合にはニュース取材のスタッフを送る。というわけで全部合わせるとアウェーの試合を取材する報道陣は100人どころじゃないんじゃないの」

☆取材競争が心配
 アジアの公式のタイトルのサッカーの試合は、AFCマーケティングという香港に本拠を置く会社が放映権を握っている。アジアサッカー連盟(AFC)が、まとめて権利を売っているからである。日本ではJSMという会社が、AFCマーケティングに代わって放映権を扱っている。
 今回の予選の場合、衛星テレビで放映する権利はJSMを通じてNHKが買うらしい。つまり衛星波ではNHK−BSで見ることができる。
 多くの家庭で見ることのできるチャンネルの放映権は、JSMから電通に渡り、電通がスポンサーをアレンジして試合ごとに別々の民放局に売る交渉をしている。
 したがって地上波では、カザフスタンでの試合はA局、ウズベキスタンでの試合はB局というように試合ごとに別のチャンネルで放映されることになる。
 これはサッカー協会で友人から聞いた話である。
 「4年前と同じだ」とぼくは思った。「ドーハの悲劇」が起きた前回の最終予選はカタール1カ国内での集中開催だったが、日本での放映権は1試合ごとに別べつのテレビ局に分売されていた。
 そのために各局がそれぞれスタッフを送り込んで芸能番組さながらの取材競争をした。
  今回はホーム・アンド・アウェーで試合ごとに開催国が違うから、ひどいことにはなるまいと思っていたが、そうでもないらしい。
 報道陣の過激な競争が代表チームの妨げにならないように、自戒をこめて注文しておこう。


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