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サッカーマガジン 1997年8月20日号

ビバ!サッカー

W杯予選、H&Aへの対応

 ワールドカップのアジア最終予選の方式がホーム・アンド・アウェーになった。これはFIFA(国際サッカー連盟)の決定である。適切な措置だと思う。これに対してJリーグは日程を変更しないで、日本代表選手抜きで後期の試合を行なうことにした。これも適切な対応である。

☆四つの利点
 国際サッカー連盟(FIFA)は7月21日にチューリヒで開いたワールドカップ・フランス大会組織委員会で、アジア最終予選をホーム・アンド・アウェー方式で行なうことを決めた。これは非常にいい決定だったと思う。「日本に有利だから」ではない。ホーム・アンド・アウェーが本来、サッカーの国際試合の「あるべき姿」だからである。
 アジア・サッカー連盟(AFC)では、10チームをひとつの国に集めて行なう「セントラル方式」を予定していた。それをFIFAが引っ繰り返したわけである。
 ホーム・アンド・アウェーのほうが、セントラル方式よりもいい理由は四つある。
 ひとつは、対戦する2チームのどちらにも地元の利と遠征の不利があって公平だということである。
 もうひとつは、両方の国のファンがそれぞれ自分の国の代表チームの戦いぶりを楽しむことができることである。
 三つ目は、両方の国のサッカー協会が、それぞれ入場料収入などの経済的利益を得るチャンスがあることである。この点は、現在はテレビ放映権がからんで、ちょっと複雑なことになっている。
 そして最後に、ホーム・アンド・アウェーでは、試合と試合との間隔をあけることができるから、その間に怪我などの手当てをして、一つ一つの試合を、いいコンディションで争うことができることである。
 FIFAがホーム・アンド・アウェーに踏み切ったのは英断だった。

☆アジアの特殊事情
 ホーム・アンド・アウェーは、ヨーロッパで発達してきた方式である。ヨーロッパは、比較的狭い地域に多くの国があるから、日本の国内旅行と同じ感覚で遠征の試合をすることができる。たいていの場合、飛行機に乗っているのは1〜3時間だから、前の日に試合地に行って1泊して、試合が終わったら、その日のうちに本拠地に戻ることができる。
 そこがアジアとは違うところである。アジアは極東と呼ばれる日本から近東と呼ばれる地中海に近い地域までを含んでいる。4〜5時間の時差があり、飛行機で2日がかりになるケースもある。
 そういうわけで、アジアでは「セントラル方式」か「ホーム・アンド・アウェー」かは、1950年代から半世紀近くにわたって引きずっていた問題だった。
 セントラル方式であれば、あらかじめ2週間ほど国内日程の中断を予定しておけば、国際試合の日程を消化できる。そのためにアジアでは、セントラル方式による短期決戦が好まれていた。
 さらに経済的な事情もある。
 航空機が発達してからは、アジアでもホーム・アンド・アウェーは、必ずしも困難ではなくなったが、貧しい国と豊かな国との格差が大きくて、平等な条件でお互いに遠征するのは難しかった。
 そこで豊かな国が自国を有利にしようと思って、経費を負担して自国あるいは同じ地域での集中開催を画策した。
 地域の広さと貧富の格差はアジアの特殊事情だった。

☆Jリーグの対応 
  短期決戦のセントラル方式に比べて、ホーム・アンド・アウェーは長い期間にまたがる。そのために国内のリーグの日程との兼ね合いが問題である。
 ヨーロッパの場合は、週末の土曜か日曜に国内の試合をし、週の中間の水曜に国際試合をすることで調整してきた。狭い地域内で遠征に時日を要しないからできることである。  
 広大なアジアでは、そうはいかない。これもアジアでセントラル方式が好まれてきた理由だろう。セントラル方式なら、国内リーグの日程を一定期間、あらかじめあけておいて、そこで大会をすることができる。
 今回のワールドカップ・アジア最終予選は、FIFAの決定で突然、方針が変更されたので、Jリーグの後期の日程と完全にぶつかることになった。
 日本協会とJリーグが、これにすばやく対応したのは見事だった。Jリーグの日程を変更しないで、日本代表選手をはずしたままで試合をするという決定である。
 問題がないわけではない。 
 スター選手抜きでリーグの公式戦をするのは、地元のサポーターに対する裏切りである。また各クラブの入場料収入にも影響する。地域に根を下ろしたプロのクラブに対して安易に強要していい方法ではない。
 しかし、今回の非常措置は、あまりもめないで受け入れられた。これは「日本代表をぜひワールドカップへ」という思いが、ファンの間に非常に強かったからだろう。今回はこれでよかったと思う。


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