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サッカーマガジン 1997年7月9日号

ビバ!サッカー

キリンカップの最終戦

 ワールドカップ予選の次の展開をにらんで、加茂周監督は二つの標的を視野に入れていただろう。一つは地元での1次予選第2ラウンドであり、もう一つは10月に予定されている最終予選である。第2ラウンドの前に行なわれたキリンカップを、そういう視点で眺めてみた。

☆長居競技場の個性
 東京・国立競技場のキリンカップ第1戦を兵庫県加古川市から日帰りで見に行き、その1週間後の6月15日に大阪の長居競技場で最終戦の日本代表対トルコ代表の試合を見た。 
  長居は1964年の東京オリンピックの前にできたスタジアムである。国立競技場は東京オリンピックの7年前にできて、オリンピックのためにスタンドを拡張して以来、ほとんど手が加えられていないので完全に老朽化している。しかし長居の方は1年前に新しく作り直して面目を一新した。バックスタンドにも屋根がつき、中に入ると包み込まれるような温かい、しかし明るい雰囲気がある。
 地下鉄の長居の駅を降りてから公園のなかをしばらく歩く。これが、なかなか楽しい。ところどころにタラのてんぷらかホットドッグでも売っていたら、ヨーロッパのサッカー場に行くのと変わらない。
 地下鉄の駅を出たところにダフ屋が何人もいて「余り券あったら買うよ」と叫んでいた。「イギリスでは地下鉄のプラットホームの中にもダフ屋が入り込んでいたな」と、かつてロンドンでサッカーを見たときのことを思い出した。
 地下鉄の中で日本代表のユニホームのシャツを着た若い女性を何人も見かけた。男友だちと仲良く手をつないでいたりする。若い女性が安心してサッカーを楽しめるのは、日本の方がいい。
 長居には長居の雰囲気ができつつある。サッカー場に個性があるようになってきたのも、うれしい。

☆日本代表の守りは?
 試合は1対0で日本の勝ちだった。
 加茂周監督の前には、この時点で二つの標的がある。
 一つは、すぐ1週間後に東京で行なわれるワールドカップ1次予選の第2ラウンドである。3月にオマーンで行なわれた第1ラウンドに3戦全勝し、得失点差も17点ある有利な立場だから心配はないが、地元のファンの前でへんな試合はできない。
 もう一つは10月下旬の予定の最終予選だ。こちらは正念場である。試合地も相手も決まっていないが、相手のテクニックのレベルは、一段と高くなる。アラブの国が相手なら運動能力と体力で向こうが上の可能性がある。東アジアの国が相手なら、運動量とスピードで手強い可能性がある。
 そういうことを考えて、この時点では守りの方に注目してみたいと考えた。
 今回は2戦とも守備ラインの中央を3人で守るシステムだった。井原がスイーパーで、秋田と斉藤がストッパーである。3人とも180センチ台の長身だ。井原はカバーリングがよく、経験豊富である。ストッパー2人は若くて運動能力が高く、ヘディングが強い。非常にいいトリオができつつあるように思った。第1戦では3人のお互いのカバーリングの良さが目につき、最終戦ではストッパー2人の頑張りが目に付いた。
 中盤は第1戦では本田が守備的な役割を務め、最終戦では守備ラインの前は山口と名波で、山口が守備的に働いていた。ここらあたりが今回のポイントだったのかもしれない。

☆審判にも文化の違い?
 第2戦では3対0とシードしながら最後は乱戦になって3点をとられ結果は4対3だった。最終戦は前半25分の1点を守りで無失点だった。
 長居競技場の記者席で、隣に座っていた大阪の友人が聞いてきた。
 「きょうの守りはいいね。東京でやったときは、ひどかったんだろ」
 「そんなことはない」とぼくは答えた。
 なるほど、第1戦の終盤に3点もとられたのは結果だけを見ると問題だが、失点3のうち最初の1点はゴール正面のフリーキックで、これは守りの壁の穴をぶちぬいたアサノビッチのキックをほめるべきものだった。2点目の失点はペナルティー・キックだった。
 フリーキックも、ペナルティー・キックも、スタンドから見ているかぎり、なぜ反則をとられたのか分からなかった。あとでビデオで確かめてみたけどビデオでも分からない。  
 「3点もリードしているのだから、反則と間違えられやすいような行為はするな」というのも一つの教訓ではあるが、現実の問題としては、厳しい試合になればなるほど、これは難しい注文だろう。
 最終戦でも後半12分にペナルティー・キックをとられた。これは川口がみごとに防いだが、この反則も記者席からは分からなかった。審判の笛が厳しすぎるように見えた。 
 キリンカップの審判は韓国から招かれていた。日本と韓国で、審判の笛にも文化の違いがあるようでは、共催の2002年を控えて、ちょっと心配である。


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