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サッカーマガジン 1997年7月2日号

ビバ!サッカー

キリンカップの第1戦

 日本代表対クロアチア代表の試合を6月8日に東京の国立競技場で見た。4対3で日本の勝ち。新聞では日本代表チームのシステム(布陣)をテーマにした論評が多かったが、ここでは新聞などが取り上げそうもない角度からの見方で取り上げてみよう。

☆国際試合の見どころ
 キリンカップの第1戦を見るために東京へ行く新幹線で、たまたま友人といっしょになった。その友人は大阪から日帰りで見に行く途中だった。「クロアチア代表を見るのを楽しみにしていたんだけど、ベストメンバーじゃないらしいよ。代表のレギュラーが4人しかいないらしいよ」
 なるほど、なるほど。よくあることだ。
 キリンカップは1978年にジャパンカップの名前で始まってから19年の歴史がある。その間には、いろいろなことがあって、有名なクラブチームを招いても、1〜2のスタープレーヤー以外は、ほとんど2軍じゃないかと疑われたり、あまり真剣に勝負を争わないじゃないかと批判されたりしたこともある。 
 公式のタイトルではない招待大会だから、招かれたほうは必ずしも勝負にはこだわらない。スタープレーヤーの顔見せや有名クラブの地方まわりだったりした可能性もあった。
  現在はクラブチームではなく、国の代表チームを招いているし、情報が地球を駈けめぐる時代だから、そうそう、いい加減なことはできなくなっているが、それでも常にベストメンバーで来日するには、難しい事情もある。 
  「それでもいいんだよ」と、ぼくは答えた。「ぼくが見たいのは日本代表のほうなんだから」 
 有名クラブや世界のスターを見るためでなく、地元日本代表を見るために関西から駆け付ける。そのほうが本当である。

☆楽しみな中田英寿
 時間と体力とお金を投じて兵庫県加古川市から日帰りで東京まで出かけたのは、なによりも中田英寿くんのプレーぶりを確かめたかったからである。今回の代表で最年少の20歳代表デビューだった5月21日の日韓戦で、攻めを作り出すパスのセンスが抜群だという評判だった。
 期待どおり、中田は先発だった。前半18分、中田が右後方からすばらしいパスを出し、カズが飛び込んでシュートした。クロアチアのゴールキーパーが辛うじて止めたが、中田の才能の一端を目のあたりにすることができた。
 ゴール裏の応援席から「カズ! カズ!」のコールが起きた。
 「カズはゴールを決められなかっかじゃないか。コールするなら、ナカ夕! ナカタ! だろう」というのが、ぼくの感想である。
 後半4分の日本の2点目は中田がアシストした。中盤右寄りのフリーキックを受けてドリブルで2人をかわして突破し、右からパスしたのをカズが決めた。
 またも「カズ! カズ!」のコールだった。
 「中田が作ったチャンスだよ」と、ぼくは思った。
 日本が3点をあげたあと後半32分に中田は交代して退いた。そのあと試合は二転三転して結局4対3で日本が勝った。
 試合のMVP(最高殊勲選手)は2点をあげたカズだった。中田がMVPだと主張するつもりはないが、点をとったらMVP。毎度毎度カズというのもちょっと寂しい。

☆守りの壁の作り方
 「4点とったのにも驚いたが、3点とられたのにも驚いた」
 試合のあとの記者会見で加茂周監督は、こう言っていた。見ていたぼくたちも3対0のリードがフイになりかけたのには驚いた。
 反撃を食うきっかけは、後半31分、ゴール正面約20メートル、ペナルティー・エリアすぐ外からのフリーキックで最初の失点をしたことである。
 なぜ反則をとられたのか、スタンドのぼくは理解に苦しんだが、ともあれアサノビッチのフリーキックそのものは、みごとだった。守りの壁の穴を強烈なシュートで貫いた。
 「守りの壁の作り方が悪かったのか、ゴールキーパーの守りが悪かったのか、それともアサノビッチのキックがすばらしかったのか?」
 記者会見で聞いてみた。
 アサノビッチ本人は「それは、記者の皆さんが判断することでしょう」と巧みにかわした。「ぼくのキックは、みごとだったでしょう」と言外に言っているようなものである。
 日本の井原選手は「うーむ、やはりキックがすばらしかったんでしょうね」と正直にシャッポを脱いだ。
 ゴール正面のフリーキックに対して守りの壁の間に、ゴールキーパーがボールを見るための穴をあける。守り方は、サッカーの技術書には、たいてい載っている。しかし、その穴を狙われた例を、ぼくはトップレベルの国際試合で何度も見てきている。
 この壁の作り方がいいのかどうか、かねがね疑問を持っていたので、今回も聞いてみたのだが、明確な答えは得られなかった。


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