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サッカーマガジン 1997年6月18日号

ビバ!サッカー

アントラーズ快走の秘密は

 Jリーグの前半戦は、アントラーズの快走である。一方で、かつては優勝候補の常連だったヴェルディは低迷している。この両チームの対戦を見て、快走と低迷の理由が、ちらっと分かった。両チームは、いい方と悪い方へ、それぞれ変わってきている。

☆名良橋の好プレー
 これは前回の続きである。
 前回は、東京の国立競技場にヴェルディ対アントラーズの試合を見に行ったら、ダフ屋がたくさん出ていた話を書いた。しかし、かんじんの試合の話は書かなかった。そこで今回は、ちょっとタイミングが遅れたけれども試合の内容に触れてみたい。
 本来なら、この試合はダフ屋が出るのが当然の好カードである。ヴェルディは、Jリーグのスタートで3年連続優勝した人気チームだ。一方のアントラーズは今年も優勝候補の筆頭である。舞台は国立競技場。ただ、天候はあいにくの雨模様だった。
 でも雨の中で、ぼくは「ふーむ! ふーむ!」と感心しながら見ていた。激しく、きびしい好試合だったし、なかなか、いいプレーがあった。
 最初に「ふーむ!」とうなったのは、アントラーズの名良橋のプレーである。
 右サイドバックの位置から中盤に進出して、ボールを受けるとすぐ、左サイドへ大きく振った。ボールは糸を引くようにフィールドを横断し、タッチラインぎわの味方に、ぴたりと渡った。みごとなサイドチェンジのパスである。
 キック力がすばらしい。長いパスの正確さがすばらしい。そして何よりも60メートル以上向こうの逆サイドまで見ていた視野の広さがすばらしい。
 ぼくが、こういうプレーを見たのは1970年のワールドカップのブラジルが最初である。「フィールドを横断するパスが、センチメートル単位の正確さで届く」と当時、びっくりして書いた記憶がある。

☆すっごいプレー!
 「古い話をするなよ、そんなの今じゃ当たり前だよ」
 と友人が、ぼくをからかった。
 確かに古い話だ。26年前である。
 でも、その当時のブラジルは、すっごいチームだった。ペレがいた。トスタンがいた。ジャイルジーニョがいた。カルロス・アルベルトがいた。ワールドカップの歴史に残る彼らの一つ一つのプレーを、ぼくは目をみはって見ていた。
 そんなプレーを現代のJリーガーは、ごく当たり前にやれるのだとしたら――。すっごいなあ、とぼくは思う。日本のサッカーは、ずいぶん進歩したじゃないか。
 アントラーズのプレーで、その次に「ふーむ!」と思ったのは、3人1組の攻めである。 
 たとえば、左サイドから秋田が攻め上がる。
 中央のビスマルクがパスを出してゴールに向かう。 
 秋田はボールを折り返してビスマルクに返そうとする。はやい、グラウンダーのパスである。 
 そのとき突然、後方から本田が走り出る。 
 秋田からビスマルクへ折り返されるパスの途中に走り出て、インターセプトする形でボールをかっさらってシュートする。 
 相手の守りは秋田とビスマルクに分散していて、その中間に進出した本田は、ほとんどフリーである。 
 スピードがあり、正確さがあり、アイディアがある。 
 すっごいプレーだな、と思った。これもブラジル並みである。

☆どうした! ヴェルディ
 この試合に限っては、ヴェルディも悪くなかった。
 先取点はヴェルディだった。前半25分、カズがゴールキーパーとからみながら、こぼれたボールをけり込んだ。
 「キーパーチャージだ」と、ぼくの隣で見ていた少年が叫んだ。
 「いや、審判がゴールと認めたんだよ」
 お父さんらしい人が答えた。
 バックスタンドの高いところの席で、周りのお客さんは、みな、なかなかのサッカー通のようだった。
 そのあとは、アントラーズの攻め、ヴェルディの守りだった。守りはきびしく、組織もしっかりしていた。それに、ゴールキーパーの本並が、なんどもいいプレーをした。
 しかし、後半になるとヴェルディの選手たちの足が明らかに止まってきた。疲れである。 
 かつてのヴェルディには、こんなことはなかった。ボールを支配して相手を右往左往させ、後半は相手の方の足が止まったものだ。いまや話は逆である。
 それでも守りに守って、失点を前半39分にアントラーズの外人コンビがあげた1点で食い止めた。
 PK戦である。 
 ヴェルディの方が2−0とリードしていて前園がキッカーとして出てきたとき、後の席に座っていたお客さんが大声で言った。 
 「ゾノか。こりゃ、はずすぞ」
 予感どおりになった。 
 天井さじきのお客さんは、サッカーをよく知っている。


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