アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1997年6月11日号

ビバ!サッカー

Jリーグとダフ屋の経済学

 Jリーグの観客数が大きく落ち込んだと心配されている。たしかにかなりの減少らしいが、それでもJリーグ発足以前に比べれば、はるかに多くの観客がスタンドを埋めている。ひところのブームが異常だったので、むしろ堅実なファンが定着してきたと見るべきではないだろうか。

☆「余り券、買うよ」
 「余り券、買うよ」と千駄ヶ谷の駅前でダフ屋が連呼していた。「ダフ屋が出るくらいなら、Jリーグの人気も、そんなに悪くはないじゃないか」と考えた。Jリーグの第9節、5月17日にヴェルディ対アントラーズの試合を見に国立競技場に行ったときのことである。
 ダフ屋が活躍するケースにはいろいろある。
 当日売りがないほどの人気であれば、非合法のダフ屋さんにプレミアムを払ってでも、入場券を手に入れたいお客さんは多いはずである。
 しかし、そういうときは、ダフ屋が切符を仕入れるのも、そう簡単ではない。最近は電話とコンピューターを連動させた入場券販売システムが普及しているから発売と同時に1人1枚あるいは2枚ずつで売り出した切符が売り切れる。
 うまく手に入れた一般のお客さんは、自分で見に行きたいのだから手放さない。だからダフ屋の活躍する余地は余りない。
 ほどほどの人気で、売り出しのときには多少の余裕があったが、その後に売り切れたような場合は、ダフ屋のチャンスである。
 熱心なファンは発売時に窓口で手に入れることができる。一方ダフ屋は売れ残った切符を買い占めることができる。
 その後に見に行くことを思い立った人は、プレイガイドの窓口に行っても手遅れである。そこでダフ屋のお世話になることになる。ダフ屋は、そういう客にプレミアムをつけて売りつけることができる。これはダフ屋の正攻法である。

☆当日売りがあるのに
 しかし、現実はそれほど単純ではない。
 無料の招待券あるいは割引券がばらまかれることがある。こういう場合は、もともとは見に行くつもりのない人が切符を手に入れる。この人たちがブラック・マーケットに切符を供給することになる。そういう場合もダフ屋のチャンスである。
 それほど必要としていない人たちに切符を手に入れるチャンスがあり、本当に見に行きたい人に、ゆきわたらないときは、ダフ屋はおおいに役に立つ。
 ダフ屋はタダ券あるいは割引券を持っている人たちから安い値段で買いたたいて手に入れる。
 こういうケースでは、スタジアムの窓口で当日売りの切符を売っていてもダフ屋商法は成立する。仕入値が安いのだから、ダフ屋は切符売場の当日券よりも安い値段で売ることができる。
 お客さんにとっては多少は安く買えるのだから利点がある。かりに同じ値段でも窓口で行列する手間がはぶけるから便利である。
 とはいえ、タダで招待券をもらっても見に行く気がおきないほどの不人気であれば、ダフ屋の商売は成り立たない。切符を買ってくれる人がいないからである。
 さて、ぼくがヴェルディ対アントラーズの試合を見に行ったとき、駅前ではダフ屋が横行していたが、国立競技場の窓口では、切符は自由に買うことができた。
 ぼくはダフ屋のお世話にはならないで、まっすぐに競技場の切符売場に向かった。

☆人気は定着している!
 バックスタンドの切符売場では、当日売りをちゃんと売っていた。ぼくはいちばん安い2000円の自由席の入場券を買って、バックスタンドの高いところに登った。
 いつもならジャーナリストとして記者席で試合を見るのだが、今回は急に東京に行くことになったので、取材登録をしていなかった。そこで記者席で見ないで入場券を買うことにしたのである。それに、たまには一人の観客として、試合に熱中するのも悪くない。
 スタンドは、がらがらというほどではなかったが、かなりの余裕があった。試合中のアナウンスでは3万200人ということだった。6割の入りである。
 あいにくの雨模様だった。
 周囲で見ている人たちは、みな相当のサッカー通のようだった。熱烈な応援団は両サイドのゴール裏に陣取っているから、バックスタンドの人たちは、それほど熱狂的なサポーターではないのだろうが、ヴェルディやアントラーズのロゴの入った雨具を着ている人もいた。
 観客の入りも、まあまあである。スタンドの雰囲気は非常にいい。Jリーグの人気下降を心配する人がいるが、そんなに心配する必要はないんじゃないかと考えた。浮ついたブームは去ったが、しっかりしたファンが定着したように見える。
 試合はアントラーズの攻め、ヴェルディの守りで1対1。PK戦でアントラーズが勝った。緊迫した激しい好試合だった。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ