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サッカーマガジン 1997年6月4日号

ビバ!サッカー

2002年W杯の台所

 日韓共催の2002年ワールドカップは「黒字の見通し」になったという。その理由の一つとして、日韓両国がそれぞれ独自にローカル・スポンサーをつけて地元の収入にできることが挙げられている。これがうまく機能するかどうかに注目している。

☆スポンサーの仕組み
 スポーツ大会のときに広告を出して、援助してくれるのがスポンサーである。たとえば欧州と南米のクラブ・チャンピオンが争う、いわゆる「世界クラブ選手権」のスポンサーはトヨタ自動車で「トヨタカップ」と呼ばれている。
 とはいえ、その内側は、それほど単純ではないようだ。援助の仕方にいろいろあって、松竹梅か、金銀銅か知らないが、広告の金額と出し方に違いがいろいろある。名称も、オフィシャル・スポンサー、オフィシャル・サプライヤー、ローカル・スポンサー、ローカル・サプライヤーなど、ややこしいカタカナが並び、それにまたA、B、C…などのカテゴリーがついて、この業界の仕組みは、なかなか分かりにくい。
 さてサッカーの世界選手権、ワールドカップには、大きなスポンサーがいくつもついている。これは国際サッカー連盟(FIFA)と契約していて、かなりの金額を払って、競技場に看板広告を出す。その収入はFIFAがとる。これがオフィシャル・スポンサーである。
 用具や器具を提供して広告に利用するのがサプライヤーである。ぼくが若いころには「宮内庁御用達」とうたった広告があった。「皇室でもお使いになっているほど、すぐれた商品ですよ」というわけである。この場合は、宮内庁に広告権利料を払っていたわけではないだろう。だが現代のスポーツ大会では、サプライヤーは商品を提供したうえに権利金も支払う。「大会御用達」を広告に使うためである。

☆大赤字説は幻?
 ここでは便宜上、全部ひっくるめて単に「スポンサー」と呼ぶことにする。
 世界選手権のような大会では、主催者が直接契約する主力のスポンサーのほかに開催地が別にスポンサーをとることがある。これがローカル・スポンサーである。
 ワールドカップの場合、オフィシャル・スポンサーの出すお金はFIFAの収入になる。しかし今回は、そのほかに日韓両国で、それぞれローカル・スポンサーを付けて地元の収入にすることが認められた。
 入場料収入も日韓両国が、それぞれとることが認められた。これで2002年の財政は万万歳というわけである。
 半年ほど前に「2002年は大赤字」という記事が新聞に載ったことがある。そのときぼくは、悲観的な計算を意図的に日本サッカー協会筋が流したのだろうと疑っていた。
 当時、FIFAが巨額のテレビの放映権契約をしたことが伝えられていた。「共催で収入は半分になるんだから、テレビ収入の分け前をこれまで以上にもらわなければ、やっていけないよ」とFIFAにアピールする必要のある時期だった。
 「スポーツくじ法案」の国会提出が懸案になっていた。「スポーツ振興の資金を作ろう」とキャンペーンしなければならない場合だった。
 会場候補地を、国内の15自治体のなかから10以下にしぼらなければならない事情にあった。「安易な考えでは会場にはなれませんよ」と自治体に警告する意味もあった。

☆五輪以上の黒字に
 結果的には、ぼくの憶測が裏付けられることになった。
 FIFAは入場料収入について日本の要求を認めた。
 「スポーツくじ法案」は、ようやく国会に提出された。長野の冬季オリンピックに役立つといいと思う。
 会場候補地は10の自治体にしぼられた。財政に関連して脱落したのは、競技場の屋根を断念した広島だけだったが、大赤字説に熱意を失いかけた知事さんや市長さんは、ほかにもおられたと聞いている。
 ぼくの憶測が「事実」だったと言うつもりではない。結果的にそうなっただけだろう。 
 もともと「ワールドカップが大赤字になるはずはない」と、ぼくは考えていた。
 オリンピックは30もの競技を抱えて2週間にわたって、建前としては1都市で開かれる。それを現在ではテレビ放映権料を頼りに運営している。看板広告はない。
 ワールドカップは、サッカーだけを多くの都市に分散して開催する。会場当たりの試合数は少ないが、それだけ運営費も少ないのだから問題はない。
 競技場建設や都市インフラの整備は、その地域の将来のための投資として別に考えるべきものである。ワールドカップのためだけに「ぜいたく」をする必要はない。
 入場料収入も、テレビ放映権料もワールドカップのほうが、オリンピックより多い。
 これでワールドカップが赤字になるのなら。オリンピックのほうは、とっくにつぶれているはずである。


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