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サッカーマガジン 1997年3月19日号

ビバ!サッカー

大学と地域とサッカー

 日本のサッカーの目標は2002年ワールドカップだが、もう少し先も考えてみたい。というわけで地域と学校とスポーツを結びつけることを計画している。人口50万くらいの地域に大学と結びついたスポーツ・クラブを育て、そこからJリーグのチームもと夢見ているのだが…。

☆Jリーグ方式の大学?
 いま勤めている大学は兵庫県加古川市にある。源氏物語の時代から風光明媚で知られる須磨、明石の少し西、白鷺城で有名な姫路の少し東、気候温暖で魚がうまい。神戸、大阪に近いが、人口はそれほど過密でない。住みやすい町である。
 東京の新聞社で30年以上スポーツ記者をやったあと、この町に移り住んで5年目に入る。
  最初の2年間は短期大学で女子大生を教えるという経験をした。40年前だったら胸がどきどきしたに違いないが、ちょっと転職が遅すぎた。
 続いて新しく創設した4年制大学の経済情報学部に籍を移した。こちらは男子学生が大部分である。男の子相手なら手慣れたものだ。学生部長を引き受けて、大いに悪たれどもをやっつけようと張り切っていたが、わが大学の学生は質がいいのか、近ごろの若者は元気がないのか、おとなしすぎて拍子抜けしている。
 4年間の経験で、大学とはどういうものかが、ようやく分かりかけてきた。そこで目下の結論は「わが大学はJリーグと同じ理念でいくべきだ」ということである。
 Jリーグは、地域に根を下ろし地域の人びとに支えられたクラブで、プロのサッカーを運営しようという考えである。
 わが大学もこれでいかなくっちゃいけない。東京や京都、大阪にあるようなマンモス大学の真似をしちゃいけない。
 大学も地域に根を下ろし、地域の人びとに支えられて発展させるべきだと考えた。

☆双方向型の懇話会
 幸いにして大学当局も同じ考えを持っていた。もちろん大学の専門家は「Jリーグ方式」などという通俗的な表現はしない。しかし「高尚だろうと通俗的だろうと、有益なアイディアはよいアイディアだ」と亡くなった中国の指導者と似たことを考えた。
 というようなわけで学内外をうろうろとした結果、この3月5日に加古川市のホテルで「大学と地域との懇話会」を開く運びとなった。
 わが大学が根を下ろすべき地域は、宮本百合子の小説「播州平野」の舞台である農・工業地帯の加古川市、高砂市、稲美町、播磨町の2市2町。人口およそ50万人である。
 この2市2町の市長さん、町長さん、商工会議所、青年会議所などの団体、企業、町内会などの方がた、高校の校長先生など、いろいろな方面の方がたにお集まりいただいて、大学の在り方についてアドバイスをいただくことにした。こういうことができるのも、地域に根ざした大学のいいところである。
 かりに東京や大阪のマンモス大学が、こういう会を開いて青島知事やノック知事に案内状を出したら来ていただけるだろうか。都内や府下に大きな大学がたくさんあるのだから、一つの大学だけにアドバイスするなんて「えこひいき」はできないはずである。
 しかし、わが兵庫大学は2市2町の地域に唯一の大学だ。これを「ひいき」しても、地域の住民から「ずるい」と言われる心配はまったくない。地位のある方がたに喜んで出席していただくことができる。

☆大学からプロチームを?
 懇話会はテーブル・マスター方式で開くことにした。会場に円卓をたくさん用意して、それぞれに大学の教職員をl〜2人ずつ配置する。これがテーブル・マスターである。
 お客さんは、各テーブルに「ばらばら」に座っていただく。「ばらばらに」とは、お偉方はお偉方だけで集めないという意味である。大学院を出たばかりの若い先生が市長さんと同席ということもあり得るわけである。
 テーブル・マスターを勤める教職員は、ご出席いただいた方がたのお話を聞き、必要があれば大学の説明もする。一方的に講演や演説をするのではなく、双方向型で懇談しようという趣旨である。
 さて地域と大学との結びつきを強化していってどうするのか?
 懇話会の席でもアイディアがたくさん出るだろうけれど、ぼくにはぼくの「夢」がある。それは地域と大学に、さらにスポーツを結びつけることである。そして、この地域からJリーグ・チームを出すことである。
 ドイツのメンヘングラッドバッハは、小さな地方都市だが世界的なプロのサッカーチームを育てたではないか。
 メキシコには「ウニベルシダド・メヒコ」という大学に根ざしたスポーツ・クラブがあり、そのトップにはプロのサッカーチームがあるではないか。
 こういう例を知っているサッカーファンなら「そんなばかな夢を」とは言わないだろうけれど…。


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