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サッカーマガジン 1997年2月26日号

ビバ!サッカー

2002のスタート補遺

 ワールドカップ開催の10自治体選考の経過を、もう一度、蒸し返して振り返ってみたい。地域配分が守られ、地域のクラブを育てようと努力している都市が選ばれたのは、結果的には良かったと思うのだが、選考の方法は果たして妥当だったのかどうか。

☆小倉事務局長の手紙
 2002年ワールドカップ開催都市の決定について、意外な人から、お手紙をもらった。 
 「サッカー・マガジン掲載の、貴殿のコラム、毎回拝見させて頂いておりますが、1月29日発売号につきまして、ご参考までに別紙資料を送付させて頂きます」とあり、差出人は2002年ワールドカップ開催準備委員会事務局長、小倉純二となっている。
 あの記事の最後に「いまは新聞社をやめて関西に住んでいるので直接取材のチャンスがない」という意味のことを書いたので、資料だけでもと送ってくれたものだと思う。 
 送って頂いた資料は、12月25日の開催自治体決定のときと、1月27日の開催自治体知事、市長会議のときに、会議後の記者会見で配布したものだった。 
 あの記事は「推測」の形で書いたけれども、まったく机の上で想像したわけではない。東京にちゃんとアンテナを張っておいて、そこから情報を手に入れている。ただ、直接の取材ではないので、ちょっとぼかして書いたわけである。 
 とはいえ、東京のアンテナは、このページにしばしば登場する例の友人たちで、熱烈にサッカーを愛し、確固たる信念を持っているが、まあ、ありていに言えば独断と偏見に満ちている。 
 したがって、サッカー協会の責任者から、直接資料を送ってもらえたのは、有り難かった。 
 ここで、厚く感謝の意を表しておこう。

☆アンケートへの回答
 送ってもらった資料のうち、開催自治体決定のときのものは、翌日の新聞で報道された内容とほぼ同じ。とくに目新しいことはなかった。
 知事、市長会議の模様は新聞では詳しくは報道されなかったので、こちらの資料は、ぼくには興味深かった。
 このなかに「ベニューにおける一般的確認事項」というのがあり、開催地に選ばれた10自治体が、どのようなことを確約したかが書いてあった。
 サッカー協会は開催地を選考するのに先立って、候補の15の自治体にアンケートを送った。その回答の内容と、それが選考にどう影響したかを知りたいと先々号で、ぼくは書いた。「ベニューにおける一般的確認事項」は、どうやら、その内容のようである。
 茨城は「ワールドカップ用のスタジアムは、カシマスタジアムを増改築する」と書いている。新設か改築かという疑問に明確に答えている。 
 ワールドカップ終了後に、スタジアムをどう活用するかについては、茨城、新潟、静岡、大分が地域のクラブのホームとして使うことを明記している。茨城と静岡はすでにJリーグ・クラブを持っているが、新潟は「アルビレオ新潟」、大分は「大分FC」のホームとして使うことを明記している。どちらも将来のJリーグ入りをめざして育成中のクラブである。
 落とされた愛知や広島の回答は公表されていない。事情はあるだろうが、真相解明のためには、これは残念である。

☆数値公表の是非は?
 選考の資料となった「数値に置き換えた基準」は公表されなかった。これは12月25日の決定のときにマスコミから、かなり手厳しく批判されたところだが、この時点では公表しないのも止むを得ないと思う。
 というのは「数値に置き換えた基準」は客観的に見えるけれども、基準の作り方そのものが、必ずしも客観的に妥当なものではなく、また必要な資料をすべて数値化できるわけでもないからである。
 数値は単なる参考で、選考はいろいろな要素を総合的に勘案してしなければならない。落とされた地域のファンが熱くなっている情況の中で数値を公表すると、絶対的なものではないものが絶対的なもののように誤解されて一人歩きするおそれがある。ほとぼりが冷めてから、冷静に判断できるように資料を残した方がいい。
 とはいえ、選考の方法に疑問がないわけではない。
 たとえば、地域の配分を重視するなら、日本海沿岸で唯一だった新潟は、投票でなく優先的に選ばれて然るべきだった。地理的に条件の悪い茨城の鹿嶋を優先的に選んだのも、疑問だった。
 「まあ、なんとか協会の想定どおりの結果に持っていけたということじゃないの? ごちゃごちゃした基準を持ち出したり、変な地域割りをしたりしないで、はじめから協会が、ぴしゃりと指名すれば良かったんだよ」
 これは、独断と偏見に満ちた友人の意見である。


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