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サッカーマガジン 1997年2月19日号

ビバ!サッカー

前園移籍、三つのポイント

 前園真聖くんの移籍のごたごたは、選手とクラブと協会の関係のいろいろな問題点を、あぶり出した。Jリーグが、プロスポーツについて十分な経験もないままブームにのって浮かれていた反動が表われてきたのかもしれない。問題点の中から三つのポイントを取り上げてみよう。

☆移籍金は高すぎる?
 前園がフリューゲルスとの契約更新を拒んで移籍リストに載った。ヴェルディが契約したいと手を挙げて前園もその気になった。ただし前所属クラブのフリューゲルスには、新所属クラブのヴェルディから移籍金をもらう権利がある。これは日本サッカー協会の「選手移籍規程」第9条のCに書いてある。
 移籍金の額については、別に「移籍金算出基準」がある。大まかにいえば、その選手の年俸が基準で、それに年齢による係数を掛けた額が、移籍金の上限である。係数は年齢が若いほど大きい。
 前園選手は年俸が高くて若いから移籍金の上限も高い。
 フリューゲルスは上限いっぱいの4億5千万円を要求した。ヴェルディは「そんなには出せない」と半額の2億2千5百万円に値切った。結局、中を取って3億5千万円が落としどころだと、スポーツ新聞の記事はもっともらしい。金額は推定だが、Jリーグの最高幹部の一人によると
 「当たらずといえども遠からず」だそうである。
 その金額が高いか安いかは考え方による。ヴェルディが何年後かに前園を他のチームに譲るとき、同じくらいの移籍金をもらえる可能性があるのであれば高くはない。
 南米やヨーロッパの過去の移籍システムは、そういう基礎のうえに立っていた。
 しかし現在の日本の移籍規定は、こういう考え方のうえには立っていない。世界的にも、このシステムは大きく変わろうとする兆候がある。それを考えると移籍金額は高すぎる。

☆代理人を認めるか?
 前園選手は、フリューゲルスに対して代理人を立てて交渉した。プロ野球でも代理人が問題になっているときだけに、これも、ちょっとした話題だった。
 協会の「選手移籍規程」には第13条〔代理人等〕に「加盟者は、移籍に関し、弁護士以外のものを代理人または仲介人として雇用してはならない」という規定がある。ここで加盟者というのは選手のことである。
 これは「弁護士資格をもっていれば代理人でもいい」ということである。前園選手の代理人は弁護士だった。だから問題はない。
 だいたい選手は、サッカーの専門家であっても、法律に関わる交渉には慣れていない。一方、クラブのフロントは契約の専門家を立ててくる。そういう不平等な立場での契約は公正でない。したがって、選手が代理人を立てるのを認めるのは当然である。
 とはいえ、代理人交渉には弊害もある。たとえば、がめつい代理人が選手を食い物にするようなケースである。そのためFIFA(国際サッカー連盟)では、代理人の登録制度を設けている。
 ただし、この制度も、それほど有効に機能しない。登録制度は利権の独占につながるおそれがある。協会公認の代理人が有能で誠実な代理人を締め出すことになりかねない。
 結局のところ、代理人を選任するのは選手なのだから、悪質な代理人を選定したとしたら、それは本人の責任である。そのうえで代理人制度を認めるのが本筋だろう。

☆日本代表の資格は?
 前園選手の移籍は1月いっぱいまでもたついた。2月になっても解決しないと、前園選手は、フリューゲルスの所属でもなく、ヴェルディの所属でもない、ということになる。 
 これは日本代表チームにとっては困った事態である。なぜなら日本代表に選ぶ選手は、日本サッカー協会に登録されていることが建前だからである。宙ぶらりんの前園選手は日本代表に選べないことになる。
 もっとも日本サッカー協会の「選手登録規程」第7条によれば、登録の有効期間は、4月1日から翌年の3月31日までとなっている。こじつければ「3月31日まではフリューゲルスの登録選手だ」といえないこともない。しかし、このこじつけも、かりに4月まで事態が進展しなければ通用しない。
 というわけで、はしなくも前園問題は、サッカー選手の資格について考えさせられる結果になった。
 他に例がないわけではない。女子バレーボールの大林素子さんが日立をやめたとき、東京都バレーボール協会に個人登録して日本バレーボール協会に所属することができた。  
 また1994年の米国ワールドカップのとき、米国には、まだ、しっかりしたプロの基礎がなかったので 米国サッカー協会が有力選手と直接契約して協会所属の選手とした。  
 しかし日本のサッカーでは、選手はチームを通して登録することになっているので、バレーボール方式も、米国方式も難しい
 以上の三つのポイントについて、考え直す必要がありそうである。


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