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サッカーマガジン 1997年1月22日号

ビバ!サッカー

2002年の開催地決定

 2002年ワールドカップの日本での開催地候補10都市が決まった。地域配分の原則を守り、基準を公正に適用したのは非常に良かった。外された5都市のファンにとっては、過去のいきさつを考えれば心外だろうが、現時点では外されても止むを得ない状況があったと思う。

☆地域配分の大原則
 2002年の開催候補地を決める日本サッカー協会の理事会が開かれた日に、ぼくは和歌山大学でスポーツ・ジャーナリズムの集中講義をしていた。午前中の授業で、予定にはなかったのだが、ワールドカップ開催地候補選定の話をし、15の自治体のなかから選ばれるだろう10の自治体を予想した。
 オリンピックは都市を単位に開催するのが原則で、短期間に多くのスポーツを一つの都市で開催する。そのために混雑はするし、お金はかかるし、運営はむつかしい。結局は、その時かぎりのお祭りで、あとには巨大な施設が使い道もなく残ることになりがちである。  
 一方、ワールドカップは国を単位に開催するのが原則である。今回は日韓共同開催で、さらに大きく広がったが、都市単位でなく地域分散であることには変わりはない。
 実施するのはサッカーだけだから経費的にも安あがりだし、運営もやりやすい。必要な施設は限られており、それは地域のスポーツの拠点として活用できる。
 そういうわけだから、日本での開催都市も全国各地域に分散して配分すべきだし、日本サッカー協会の理事会も、そう判断するだろう、と学生たちに解説しておいた。
 結果を知ったのは、その日の授業が終わったあとである。
 学生の車でホテルに送ってもらったのだが、その車のなかのラジオで聞いた。
 運転していた学生が言った。
 「先生の予想がぴたりでしたね」

☆広島が落ちた事情
 地域配分の大原則が守られたのは良かった。日本サッカー協会理事会は良識を示したと思う。
 地域配分の点からみれば、北海道の札幌、日本海沿岸の新潟、九州の大分は、それぞれ、その地域から唯一の立候補だったから大きな欠陥がないかぎり、選ばれて当然だった。
 広島も、中国地方から唯一だったのだから選ばれるはずだった。ところが直前になって、思わぬ落とし穴に引っ掛かった。スタジアムのスタンドに屋根を増設することを広島市長が受け入れなかったことである。
 その10日ほど前に、広島のテレビ局が、わざわざ加古川の大学まで訪ねてきて、ぼくにインタビューをした。テレビ局の人は、ぼくの意見を聞きにきた理由を、こう説明した。   
 「広島は120パーセント当確だと信じていますが、市当局は外されるはずはないという理由として、2年前の広島アジア大会の成功を強調しています。大きな国際大会を運営した実績が、ものをいうとしているんです。でも、アジア大会とワールドカップでは事情が違うと思いますが、どう考えますか?」
 これは鋭い着眼点である。オリンピック型のアジア大会とワールドカップは、まったく違う。
 ぼくは1970年のメキシコ大会以来、ワールドカップを7回連続取材している。また広島のアジア競技大会のときは、メディア・センターの運営を担当した。両方について経験と知識がある人間は、他にいないから、ぼくのところへ来たということだった。

☆市当局の感覚に問題?
 ぼくは、こう答えた。
 「広島は選ばれるべきだ、とぼくも思っています。でも、それはアジア大会の実績があるからではありません。中国地方でただ一つの候補地だからです。ワールドカップは、全国各地に分散して開かれるべきものです。広島は伝統的にサッカーの盛んな土地であり、現在もサンフレッチェを中心に地域のサッカーを盛り上げています。そういう都市だから選ばれるべきです」
 ビデオどりが終わったあとで、ぼくは個人的な会話としてテレビ局の人に、こう話した。 
 「問題はスタジアムじゃないんですか? 広島のスタジアムは、東京の国立競技場をモデルにした設計です。国立競技場は1958年のアジア大会の前に、1964年の東京オリンピックをめざして作ったものです。いまから40年も前の設計思想の産物ですよ。テレビも、コンピューターも発達していなかった時代の考えで作られています。メディアの立場だけから見てもこの数十年の間に報道のシステムがすっかり変わったのに、それを考えに入れていない。使いものになるんでしょうか」
 40年前には、スタンド全体に屋根をかけることは、技術的にも、財政的にも難しかった。 
 しかし、同じ設計者が、いま新たに国立競技場を設計するとしたら、日本は雨の多い国であることを考慮して、総屋根つきにしたに違いないと思う。
 40年前のものを引き写してモデルにした広島市当局の感覚に、そもそもの間違いがあったのではないか。


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