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サッカーマガジン 1997年1月8日&15日号

ビバ!サッカー

アジアカップの敗因は?

 アラブ首長国連邦(UAE)で行なわれていたアジアカップで、日本は予選リーグを勝ち上がるのが精一杯、決勝トーナメントでは準々決勝でクウェートに0対2で敗れた。加茂監督のチーム作りが不十分だったのか、采配にミスがあったのか、議論がいろいろあるようだが…。

☆クウェート戦の悪条件
 「さて、決勝トーナメント。これは 一発勝負で運不運が大きく左右する」
 前号のビバ!サッカーの末尾に、こう書いておいた。原稿の締切日の時点では、まだ準々決勝は行なわれていない。しかし雑誌の発売日には、読者には結果が分かっている。となると、こんなふうに、ぼやかしておくしか方法がなかった。
 実をいうと、あのときすでに、ぼくは悪い予感がしていた。準々決勝の相手のクウェートは、もともと日本が苦手としてきたチームである。開催地のUAEと隣り合わせの、砂漠と酷暑の湾岸諸国の一つで、地元同然の地元の利がある。「運不運がある」というよりも、はじめから「日本は不利だ」と言った方が正しいだろう。
 悪い予感は、ぴたりと当たってしまった。テレビの画面で見でも、日本のプレーヤーの動きには生気がない。疲労、暑さ、生活環境の違い、などの影響が頭脳の回転にも影響を与えているようだった。
 「現代では、海外での試合は、しょっちゅうある。トップレベルのプロなんだから、海外での悪条件は不振の言い訳にはならない」という厳しい見方もできるだろう。しかし、現実には、あらゆる大会に、万全の凖備をして、トップ・コンディションで臨むのは不可能だ。
 Jリーグ・天皇杯と国内日程の立て込むなかでチームを作り、まったく気候も、生活条件も違う国に行って戦う場合、ハンディキャップがあるのは、止むを得ない。

☆80パーセントの力では…
 加茂監督は「アジアカップの時点では、チーム作りは80%くらいの段階だ」と以前から言っていた。この80%発言は、ジャーナリズムの一部で批判の対象になった。
 「アジアのチャンピオンを決める重要な大会に、80%の力で出場するなどというのは失礼だ」
 「加茂監督は弱気じゃないか。試合の前から80%の力だからと言い訳をしているように聞こえる」
 まあ、こんな意見である。
 ぼくは、加茂監督が正直すぎただけだと思う。加茂監督の立場からすれば、ワールドカップ予選に勝つことを目標にチームを引き受けたので、チーム作りが100%になるのは、ワールドカップ予選の時点でなければならない。そのためにアジアカップの時点では、80%の仕上がりでも止むを得ない。ただ、その本音がジャーナリズムの表面に出てしまったのは、まずかった。
 これは、よくあることである。
 4年前にアジアカップが広島で開かれたとき、事前に参加国を回って取材したことがある。そのとき各国は、それぞれの事情を抱えていた。
 アラブの国にとっては湾岸の選手権が重要だったし、バングラデシュにとっては、南アジア競技会が第一目標だった。タイは、東南アジア競技大会に狙いを定めていた。
 どの国も、必ずしも広島のアジアカップに100%の力で来るつもりではなかった。
 ただ、それを公然とは言わなかったし、ぼくも発言を直接引用する形では記事にしなかっただけである。

☆加茂監督を弁護する
 各国それぞれ、お家の事情があるといっても、出場する以上は、その時、その時での最善を尽くして戦わなければならない。そうでなければ、ホストの国に対しても、他の参加国に対しても、またテレビ視聴者を含めた多数の観客に対しても、失礼である。誤解されるといけないから、そこのところを強調した上で、それでも「80%の戦いは止むを得なかった」と、ぼくは思う。
 今回のアジアカップは、中近東のアラブの国、湾岸の国にとっては、100%の準備をして勝たなければならない大会だっただろうと思う。
 地元の地域で開かれているという事情もある。  
 またサウジアラビアやクウェートは、ワールドカップにはすでに出場した経験があり、その出場権をとるよりも、アジア・ナンバーワンのタイトルをとる方が重要である。
 湾岸の国を取材したとき「こういう国のサッカーチームは、古代ローマの剣闘士や江戸時代の相撲取りと同じだ」と思ったものである。貴族や殿様に抱えられて、他のお抱え剣闘士やお抱え力士と試合をするようなものである。
 石油収入で豪勢な生活をしている王族や首長が、お抱えのサッカーチームが勝つのを楽しみにしている。勝てば豪華なご褒美を与えるという仕組みである。  
 ま、そういうわけで、今回、アラブの国が強かったのは止むを得ない。日本の敗因を、あまり厳しく追及したくない、加茂監督には、これから頑張ってもらいたい、というのが、ぼくの正直な気持ちである。


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