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サッカーマガジン 1996年12月11日号

ビバ!サッカー

ファイナル・テレビ観戦記

 Jリーグのチャンピオン・ファイナル、名古屋グランパス対鹿島アントラーズの試合をテレビで見た。なかなか、いい試合だったと思う。このファイナルはテレビ向きの企画だが、テレビとサッカーの、これからの関係について、ちょっと考えさせられるところもあった。

☆タイトルの意味は?
 関西はいいお天気だったのに、チャンネルを回したら東京の国立競技場は雨だった。だけど、すごいね。ビニールの雨ガッパを着た観客がスタンドを埋めている。Jリーグ・ブームは終わったが、そのあとに以前になかったものを残している。雨のなかの大観衆も、その一つだろう。
 大観衆は、この試合に大きな意味を認めてスタンドを埋めたのだろうが、正直にいうと、ぼくには、このチャンピオン・ファイナルが、どういう意味を持つものか、いまひとつ分からない。
 リーグ戦はJリーグで終わったではないか。長期にわたって、ホーム・アンド・アウェーで、総当たりで争うリーグは、実力日本一を争う場所である。そこで今年度のチャンピオンは決まっているのだから、改めてリーダー、2位を対戦させる必要はないはずである。  
 ぼくのようなオールド・ジャーナリストは、リーグのタイトルの重要性を大事にしようと、このように保守的に考えるわけである。しかし、いまどきの若い人たちの考えは、どうも、そうではないらしい。
 雨のなかでスタンドの熱狂ぶりをみても、ファンは、この試合の価値を認めているようである。 
 延長Vゴールでグランパスが勝ったとき、フィールドに倒れこんだアントラーズの選手たちの落胆ぶりをみても、そのようである。 テレビで見ても試合そのものは白熱していた。厳しい守りあいで0対0のまま延長戦。Vゴールを決めたストイコビッチも見事だった。

☆スポンサーのための企画
 チャンピオン・ファイナルのようなイベントは、スポンサーとテレビのための企画ではないかと、ぼくは考えている。
 ぼくの勤めている大学は経済と情報の学部だけだから、ここではジャーナリズム一般の講義をしているが、他の大学の体育系や教育系の学科ではスポーツ・ジャーナリズムについて話をしている。
 長年にわたって新聞社のスポーツ記者をしていて、大学の教員になったような変わり種は、そうそうはいないから、他の大学から非常勤講師として、お呼びがかかるというしだいである。
 「スポーツ・ジャーナリズム論」あるいは「スポーツ・メディア論」という、ものものしいタイトルを付けた講義のなかで、ぼくは「メディアがスポーツを変える」という話をしている。
 たとえば、現在の甲子園の高校野球や正月の高校サッカーのルーツは大正時代の新聞社の企画に始まり、それぞれNHKと民放のテレビで隆盛をきわめている。このケースではメディアがスポーツ大会のあり方を大きく変えている。
 大相撲では、ラジオの中継が始まってから、立ち会いまでの待ち時間が大幅に短縮された。放送時間内に取り組みが終わらないと放送局が困るからである。これはメディアがルールを変えた例である。
 サッカーのチャンピオン・ファイナルは、スポンサーとテレビのためのイベントだと、ぼくは思っている。現代では、テレビとスポンサーがタイトルを作るわけである。

☆テレビがスポーツを変える
 誤解のないように、お断わりしておくが、ぼくは「テレビのための企画はけしからん」と主張しているわけではない。そういう社会現象があると指摘しているだけである。
 さて、近畿地方では、この試合は関西テレビ(東京のフジテレビ系)とNHKの衛星テレビで生中継された。NHKの方はコマーシャルが入らないから、ぼくは当然のようにNHKを見た。両方を見ることができるなら、たいていの人が、そうするだろうと思う。ただ、衛星テレビを見るためのアンテナを設置していない人がまだ多いから、民放がNHKと同じ時間帯に並びで生中継できたのである。
 しかし、この方式は近い将来に不可能になるに違いない。
 ぼくの住んでいる町でも今年中に地域のケーブルテレビが開局する。45チャンネルでスタートして、現在地上波で放映しているNHKや民放はもちろん、衛星テレビも、みなケーブルで各家庭に入ってくる。そうなれば、コマーシャル入りの民放とNHKが、同じ時間帯に同じ試合を中継することはなくなるだろう。
 チャンネル数は将来は100以上になるという話である。
 そうなったときには、スポンサー付きの民放テレビが生中継し、NHKは時間差を付けて、あとから放映することになるかもしれない。
 あるいは有料のサッカー専用チャンネルが独占して放送し、一般の人は見なくなるかもしれない。
 その時には、チャンピオンシップも新しい形に変わるに違いない。


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