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サッカーマガジン 1996年12月4日号

ビバ!サッカー

2002年の急展開

 日韓共催の2002年ワールドカップについての話し合いが始まり、事態が急展開してきた。先週号まで「欧州サッカー調査の旅」の長談義を続けてきたが、急展開に追い付くために、中途半端だけれど長談義をいったん打ち切って、ホットな問題に戻ることにしたい。

☆開会式と決勝戦
 ワールドカップの日韓共同開催が決まったとき、ビバ!サッカーでは「大きな問題は政治と経済に関することだろう」と書いた。そのころ多くのマスコミでは、開会式や決勝戦の会場を、どちらが取るかが大問題であるかのように書き立てていたが、そんな技術的な問題は、そう難しくはない。解決方法は、いろいろあるとも書いた。
 この秋になってFIFA(国際サッカー連盟)と日本と韓国の話し合いが急展開し、開会式は韓国で、決勝戦は日本で行なうことになった。
 実は世界の多くの人びとにとって、あるいは日韓両国民の大部分にとって、開会式と決勝戦をどこで行なうかは大きな問題ではない。なぜならスタジアムで式典や決勝戦を見ることのできる人は、せいぜい10万人以下であって、何10億人もの人はテレビで見るからである。
 開会式は、最近ではテレビのためのショーになっていて、演出もテレビ向きになっている。会場の固定された遠い席から見ていると、何が何だか貧相でわけのわからない出し物がいくつもある。ところが、あとからテレビの録画を見てみると、上空のカメラやアップの映像を組み合わせて、生き生きとした画面になっている。開会式はテレビで見る方がいい。
 決勝戦に限らず、試合は現場で見る方がおもしろいが、これは日韓の距離なら、見にいこうと思えば簡単に出掛けることができる。札幌−東京間と東京−ソウル間の距離に大差はない。

☆15自治体の大問題
 ぼくの予想どおり、開会式と決勝戦の会場問題は、あっさり解決して、問題は政治的なものと経済的なものになった。
 政治的な問題が二つある。一つは日本の国内問題で15の会場候補地をどう処理するかである。もうひとつは韓国の国内問題で、北と南の関係が悪化してワールドカップ開催に支障を生じないかという心配である。
 国内問題は、これもぼくの予想どおり大問題となった。
 日本の単独開催であっても、15会場は多すぎる。それが日韓共同開催になったのだから、これを絞り込まなければならなくなるのは目に見えていた。
 サッカー協会は、15の自治体から巨額の招致運動の費用を拠出してもらっていた。これが、そもそもの間違いだと思うが、それをいまさら言っても仕方がない。FIFAが「日本は10会場以内」といっているのは、大会運営の立場からいえば、合理的で、もっともである。
 15の候補地をどう絞るのだろうか。ワールドカップの歴史と性格からみて全国各地域に分散して開催すべきだと思うが、そもそも日本サッカー協会が15自治体を選んだとき、施設計画や運営能力は、いずれも十分だと認めたはずである。そうなると、どこかを外すのは、きわめて難しい判断になる。
 どこかの候補地をはずす場合は、これまで拠出してもらった金額はすぐに全額返還すべきである。そして日本サッカー協会の幹部は、責任をとって辞任すべきである。

☆コリア・ジャパン
 政治的な問題のうち、韓国の方の南北問題は、潜水艦事件などが伝えられて心配だが、ワールドカップ開催への影響は表面化していない。成り行きを見守らなくてはならない。 
  経済的な問題は「ワールドカップは大赤字」という予想で、すでに新聞などで取り上げられている。これはテレビマネーを中心に、これからの中心課題になっていくだろう。
 ぼくにとっては予想外で、興味深かったのは「大会の呼称」である。韓国が自国名を先にすることを主張し、日本が譲歩して「コリア・ジャパン・ワールドカップ」と呼ぶことになった。
 ぼくは両国では、それぞれホーム・ファーストで、日本では「日韓」、韓国では「韓日」と呼び、英語では、アルファベット順だろうと単純に考えていた。
 新聞社に勤めていたときに日本・中国・ネパール三国合同のエベレスト登山のプロジェクトを担当したことがある。このときは登山隊の呼称を英語のアルファベット順にすることを中国が主張し「チャイナ・ジャパン・ネパール」登山隊となった。
 山の名前はエベレストではなく、中国名とネパール名を使うことになり、これもアルファベット順で「チョモランマ/サガルマタ」と中国名が先になった。実はチョモランマの綴りには、Cが先頭にくるものと、Qが先頭にくるものと2通りあるのだが、中国は自国名が先にくるようにCを主張した。
 「児戯に類する」とそのときは思ったのだが、今回も同じようなものだろうか?


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