久しぶりにヨーロッパのサッカーを見にいって、相変わらずの観客の無軌道ぶりと、すっかり変わったプレーのスタイルに驚いた。イタリアのサッカーの観客数が減っているのは、コンパクトな守りのサッカーの流行が原因だろうか。それとも別の要因があるのだろうか。
☆相変わらずの花火の乱舞
イタリアのサッカーを見にいってびっくりしたのは、観客席から手持ちの花火を打ち上げる習慣が、いまだに行なわれていたことである。
「ヨーロッパのサッカーでは当たり前じゃないか」と言われそうだが、この悪習をなくそうと各国で、いろいろ努力してきたことも知っているので、そろそろ、おしまいになったんじゃないかと思っていたわけである。ところが、いまだに盛大にやっていた。
かつて南米で、夜の試合が終わると観客がいっせいに持っている新聞紙を筒状にまるめて火をつけるのを見たことがある。スタンドが火の海のようになって美しい。
しかし、こういう話は、当時、勤めていた新聞にも、このビバ!サッカーにも載せなかった。日本の読者が真似をすると困ると思ったからである。
スペインでは、燃えている花火を観客がフィールドに投げ込んだら、警官が拾いあげて、燃えているのを、そのまま満員のスタンドに投げ返したのを見たことがある。これにも、びっくりした。
今回、イタリアで見た試合では、花火を使うのはビジターチームの応援団だけだった。ホームの方は観客のコントロールも地元チームの責任になるので、やらないのだろう。
ボローニャでは、ビジターの応援団のゴール裏スタンドの前に、消防士が待機していて、花火が投げ込まれると、火事を消すみたいに大きなホースで水をかけていた。これは、ちょっと大げさ過ぎる。
☆ゾーンプレスの流行
花火の投げ込みは、古い習慣を残しているが、試合のスタイルは新しくなっている。つまり、例の「ゾーンプレス」ばかりである。
双方が守備ラインを思い切り押し上げて、中盤の縦幅20メートルくらいの狭い地域に20人が、ひしめきあってプレーする。敵のアイディアとテクニックを殺して守りあうやり方である。
守備ラインを押し上げるから、その背後に広いスペースができる。そこヘボールが出ると危ないので、ゴールキーパーが思い切ってペナルティー・エリアから飛び出して守る。インター・ミラノでも、ACミランでも、味方が攻めているときは、ゴールキーパーは、しょっちゅう、ペナルティー・エリアの外にいた。味方は10人が全員、ハーフラインより向こう側に攻め込んでいるから、そうしなければバランスがとれない。
このスタイルを「新しい」というと、また笑われるかもしれない。もともと、この戦法の原型は、1974年のワールドカップでオランダのリヌス・ミケルス監督が世界に披露した「トータル・フットボール」で、もう四半世紀の歴史を持っている。
ゴールキーパーが、ペナルティー・エリアを、しょっちゅう飛び出してプレーするのは、コロンビアのイギータ以来である。ぼくがコロンビアのメデジンに行ってイギータを初めて見たのが1989年だから、それから数えると7年の歴史がある。
始まったころは面白い戦法だったのだが、こうネコもシャクシもやりはじめると、サッカーがつまらなくなる。
☆サッカー衰亡論
狭い地域での守りあいのサッカーでは、見る方は面白くない。
お客さんは、スタープレーヤーが目の覚めるようなテクニックで意外性あふれる創造的な攻めを展開してぐれるのを楽しみたいからである。
セリエAの観客が減ってきたのは、守りのサッカーが幅を利かせているせいだろうか、と考えた。
もっとも、この考え方は目新しいものではない。
「守りのサッカーが、お客さんを減らす」という判断が出はじめたのは1950年代である。それから40年たつのに、依然として、サッカーは世界のスポーツの王様である。
1950年代は、すばらしいテクニックと創造力を持つ天才ペレが登場した時代である。ペレに代表されるブラジルにくらべて、ヨーロッパのサッカーは守備的すぎる。だからヨーロッパのサッカーはダメになる――というのが、当時のジャーナリズムの論調だった。
「サッカーはダメになる」という40年前の議論が正しくなかったことは、いまでは明らかである。しかし、20世紀末に再び起こっている「サッカー衰亡論」が、やっぱり間違いだとは必ずしも言えない。
というのは、変わったのはサッカーの戦法だけではないからである。
いま、二つの魔物がヨーロッパをゆさぶっている。
一つはテレビの多チャンネル化であり、もう一つはEU(ヨーロッパ連合)への動きである。このことについては、改めて考えてみることにしよう。 |