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サッカーマガジン 1996年11月13日号

ビバ!サッカー

イタリア・サッカーの現況
―欧州サッカー調査の旅D―

 世界でもっともレベルが高く、人気のあるリーグは、セリエAだといわれている。夏休みの終わりに学生とともに出掛けた欧州サッカー調査の旅で、まずイタリアを選んだのは、そのためだった。ところが現地の人たちに聞くと、このところセリエAは人気が落ち目だとか…。

☆欧州のシーズン
 ヨーロッパ中央部の国のリーグは9月にはじまり、年を越えて翌年の5月まで続く。つまり秋、冬、春がシーズンで夏が休みである。そんなことは、わざわざ解説しなくても、最近では日本のサッカーファンはみな知っている。知っているどころか、各国リーグの日程を細かく調べて、多くの若者が日本から試合を見に行くのだそうである。
 「10日間の欧州旅行で10試合見て帰った学生がいたよ」と、イタリア在住の友人が話してくれた。現在では、試合は土曜、日曜に行なわれるとは限らない。テレビの都合などで曜日を変えて行なわれる試合があるから、そんな芸当ができるわけである。
 ぼくは35年にわたって東京の新聞社でスポーツ記者をしていて、とくにサッカーには詳しい専門家だと内心、うぬぼれていたが、実はヨーロッパの国内リーグの試合を見たことは数えるほどしかない。新聞社ではプロ野球も、バレーボールも、レスリングも取材するので年中、休む暇がなく、そう簡単にサッカー見物旅行に出掛けるわけにはいかなかったからである。
 サッカー以外の仕事で海外出張した時に、すきを見てサッカーの試合をのぞくのが関の山だった。したがって現代の若者が10日間で見て回る試合数を何十年もかけて見ていたことになる。
 いまは大学の教員に転身したので夏休みがある。しかも、わが大学の夏休みは9月末まである。ヨーロッパのシーズンの始まりを見にいくことができるわけである。

☆セリエAを見る
 そういうわけで9月の後半に学生2人とともに「欧州サッカー調査の旅」に出掛けた。
  理想をいえば9月よりも11月ごろの方がいい。そのころになれば、各国リーグは中盤にさし掛かって白熱しているし、なによりも格安航空券の値段が安い。今回の旅行は関空−ローマ−パリ−ミラノ−関空とまわって18万円台だったが、11月になると10万円台くらいまで下がる見込みという話だった。
 しかし11月は大学の学期中だから学生を連れ出してヨーロッパで遊んでいたなんてことになると具合が悪い。本当は学生に誘惑されたのだが、学期中に学生を誘惑したというような噂が立つと困るから9月に出掛けたわけである。
 10日間に10試合とはいかなかったが、それでも実質8日間の滞在で4試合見た。パリで1試合のあとイタリアに入ってセリエAの試合を2試合とUEFAカップの試合を1試合である。
 まずミラノで9月21日の土曜日にインター・ミラノとラツィオを見た。セリエAの試合は、原則としては日曜日に行なわれることになっているのだが、インターは次の週の火曜日にUEFAカップの試合をするので、間を開けるためにリーグの試合を1日繰り上げることが認められて、土曜日に試合をしたのである。
 次の日の日曜日には、列車でミラノからボローニャへ日帰りで行ってボローニャ対ACミランを見た。
 これでセリエAの試合を2試合、見たことになる。

☆観客は減っているか?
 「イタリアがヨーロッパで、いちばんサッカーの盛んな国になった原因は何ですか?」 
 ローマでイタリア・サッカー協会を訪問したとき、またミラノでイタリア・プロ・リーグの事務所を取材したとき、こういう質問をしたら、両方とも答えは同じだった。
 「サッカーが盛んだって? とんでもない。お客さんが減って困っているんだよ」 
 イタリアのサッカーの観客動員数が昨シーズン大きく減少したことを、ぼくも知らなかったわけではない。 
 しかし、イタリア・リーグがヨーロッパで、もっともレベルが高く、また人気があることは歴史的事実だから、本当のことを質問して、お世辞を言ってみたわけである。 
 一方で、歴史的には本当であっても、昨シーズンについては事実に反することを、あえて質問したのは、相手を挑発して真実を引き出そうとするジャーナリストとしてのテクニックだった。ただし、これは大学の先生には、ふさわしくないことだったかもしれない。
 ともあれ、イタリアのサッカー当局者は、観客数の減少を憂慮していたのだが、ぼくの見たところ、ミラノの試合も、ボローニャの試合もスタンドは満員で、なにも心配はなさそうだった。 
 「ミラノの試合はカードが良かったんでしょう。ボローニャは3部、2部、1部と急躍進して1部に復帰したので例外的に地元のサポーターが燃えているんです」というのが、リーグの人の説明だったが……。


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