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サッカーマガジン 1996年10月30日号

ビバ!サッカー

2002共催への反応
―欧州サッカー調査の旅B―

 イタリア・サッカーの経済事情を聞こうと、ミラノにあるイタリア・プロ・サッカー・リーグの事務所を訪ねたら、逆に「2002年のワールドカップはどうなんだ」と質問された。日韓共催のポイントが経済問題であることを、さすがにサッカー・ビジネスのプロは見抜いていた。

☆イタリア協会で
 9月下旬に学生2人を連れて、いや学生につり出されてイタリア・サッカー調査の旅に出ていたとき、日本サッカー協会の長沼健会長と小倉純二専務理事が欧州へ来ていたらしい。
 ぼくたちがローマでイタリア・サッカー協会(FIGC)を訪問したのが9月18日の水曜日。ちょうど、その日に2002年ワールドカップ開催準備委員会実行委員長である長沼会長と、事務局長である小倉専務理事がチューリヒでFIFA(国際サッカー連盟)のブラッター事務総長と会談していたはずである。
 長沼会長のほうは2002年準備の難問をたくさん抱えた重要な旅、ぼくたちのほうは研究調査といっても「ついでにトトカルチョでも買ってみようか」という気軽な旅だから同列に論じることはできないが、ぼくたちの訪問先もサッカー運営の専門家たちだったから2002年ワールドカップに興味を持って、いろいろ質問してきた。
 イタリアにはFIFA副会長のマタレーゼ氏がいる。どちらかというと韓国寄りで共同開催を推進したという噂の人物である。ブラッター事務総長、メキシコのカニェド副会長とともに共同開催の準備のためのワーキング・グループの中心になることになっている。
  マタレーゼ氏はイタリア・サッカー協会の会長だったのだが、8月に辞任に追い込まれて会長は空席だった。「わがオフィスは無政府状態なんだ」とローマの高台にあるFIGCのビルで事務局次長のスフォルツァさんは笑っていた。

☆重要人物は失脚
 スフォルツァさんは「1964年の東京オリンピックに役員で行ったことがある」という。かなり年配の方である。ぼくの取材手配を、親切に、きちんとやってくれたので、おおいに感謝している。「日本や韓国でワールドカップが開けるようになったのは、すばらしいことだ」と話していた。
 失脚したマタレーゼ氏は、南部のお金持ちで、北部の有力クラブの役員たちと対立していたということだった。イタリア半島では、農業地帯の南部と工業地帯の北部が、なにかにつけて対立するのだそうである。12月にイタリア・サッカー協会の新しい幹部が決まるが、北部の役員が新会長になるらしい。
 「北部の実業家たちは、日本をよく知っているし、客観的にものごとを判断できるんだ。そういう人が幹部だったら、ワールドカップは日本での単独開催が適当だと判断したかもしれないね。サッカー協会の政変が1年前に起きていれば、共同開催でなく、日本の単独開催になっていたかもね」
 これはイタリア在住の友人の話だが、マタレーゼ氏は、イタリアのサッカー界で足場を失っても、FIFAの副会長であることには変わりはない。
 したがって、マタレーゼ氏は共同開催準備の調整をFIFAの立場で続けるのだろうが、足元が揺らいでいる人がちゃんと難問を処理できるのだろうか、と心配になってきた。
 いずれにしても、こういう情勢の変化は頭に入れておく必要がある。

☆本質は経済問題
 数日後にボローニャで印刷されている英字紙のインターナショナル・ヘラルド・トリビューンで小さな記事を見付けた。
 「2002年ワールドカップ決勝大会の出場チーム数を40に増やすのか」という記者の質問に対してFIFAのブラッター事務総長は「それは日本内部でのアイディアにすぎない」と答えた、FIFAは32チームを守る方針だ、という記事である。
 これによって長沼会長たちがFIFAに40チーム案を提案したことだけは読み取れた。 
 翌週の月曜日、9月23日にミラノで全国プロ・リーグ(LNP)を訪ねたときは、先方から共催の問題点を聞いてきた。ぼくは個人的な意見として「焦点はテレビとお金だろう」と答えた。先方は「まったくそうだ」と笑ってイタリア・リーグがテレビ放映権の新しい契約をして大きな収入を加えた話をしてくれた。
 2002年のワールドカップについては、FIFAはすでに10億4千万スイスフランン(約1150億円)でテレビ放映権の契約をしている。これはアトランタ・オリンピックの980億円を上回る値段である。しかも世界でもっともテレビ保有台数の多い米国を除く権利である。この巨額の権利金のなかから日韓両国への配分金を、どれだけ増やせるのか、これは一つのポイントだと思う。
 日本へ帰ったら新聞に「ワールドカップは大赤字の見込み」という記事が出ていた。この問題はもう少し突っ込んで考えてみる必要があるようだ。


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