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サッカーマガジン 1996年10月23日号

ビバ!サッカー

欧州は変わった!
―欧州サッカー調査の旅A―

 2人と一緒に、夏休みの終わりにヨーロッパへ「サッカー調査旅行」に行って正味8日間に4試合を見た。こんなことができるのは、ヨーロッパのサッカー界の試合日程の組み方が、この数年の間に急激に変わってきたからである。そして、その理由は第一にテレビである。

☆欲張った観戦日程
 今回の旅行は「イタリア・サッカー事情調査」が目的だったが、最初に試合を見たのはパリだった。
 火曜日の朝に関西空港を出発し、時差の関係でイタリア時間では、その夜にローマに着き、翌日の水曜日にイタリア・サッカー協会を訪ねた。そのあと週末のイタリア・リーグの試合まで数日間あいている。その間を利用してフランス・リーグの試合を見ることにしたわけである。
 フランス・リーグの試合は、だいたい土曜日にあるのだが、時として金曜日に組まれている週がある。たまたま、その週は金曜日にパリ・サンジェルマンがランスと対戦することを、学生が日本のサッカー雑誌に載っていろ日程表で発見してパリ行きを発案したのである。
 木曜日にローマからパリに移動し、金曜日の夜、試合を見て土曜日の朝一番の飛行機でパリからミラノに移動、その夜にミラノでインター対ラツィオの試合を見た。
 セリエAの試合は原則として日曜日だが、インター対ラツィオは土曜日に繰り上げられていた。これはヨーロッパ・サッカー連盟(UEFA)がUEFAカップ1回戦の第2戦を翌週の火曜日に組んだためである。インターは火曜日のUEFAカップの試合をホームで戦うので、その前の週のリーグの試合を1日繰り上げることが認められたのだった。
 そういうわけで、土曜日にインターの試合を見て、日曜日には別のセリエAの試合を見て、次の火曜日にはUEFAカップの試合を見るという欲張った日程を組むことができた。

☆原因はテレビだ!
 セリエAのインターの試合が土曜日に繰り上げられていることは、日本のサッカー雑誌には載っていなかった。これは急に決まったことで、たまたま、ぼくたちより前にイタリア旅行に行っていた友人が持って帰った新聞で知ったのである。それで日程を変更して、短い旅行の間に1試合余分に見ることができた。これはラッキーだった。
 こんなふうに最近では欧州のサッカーの日程はくるくる変わる。
 ヨーロッパ三大カップのUEFAカップ、チャンピオンズ・リーグ、カップ・ウィナーズ・カップの試合は、古き良き時代には水曜日に行なわれるものと決まっていたが、現在では火、水、木に棲み分けている。そのために国内リーグの日程も急に変わったりするわけである。
 欧州チャンピオンズ・リーグは、もともとは前シーズンの各国のリーグ・チャンピオンによるカップ戦(勝ち抜き戦)で、もっとも権威のあるものだったが、3年前からリーグ方式(総当たり戦)を取り入れ、チャンピオンズ・リーグと呼ばれている。
 こういう急転換が起きている理由は第一にテレビである。
 テレビ放映権料の収入が大きくなっているので、テレビに放映してもらう回数を増やさなくてはならない。そのためにはできるだけ試合の日程をずらして、いろいろな試合がテレビにのるようにするのが得策である。
 国内リーグでも、特定の試合をテレビのために、別の曜日に行なうようなことも行なわれている。

☆分散開催の利害
 Jリーグが掲げている「地域に根ざしたクラブによるプロリーグ」はサッカーの基本的な考え方だった。サッカーが世界でもっとも普及し、人気を集めるスポーツになった原因はこれだった。
 ところがテレビの影響が、これを大きく揺さぶっているのではないか、とぼくは感じている。
 入場料が収入の主力だった時代に、ヨーロッパの三大カップが、仮に全部、同じ水曜日に開かれても差し支えはなかった。入場料は地元チームの人びとが払うのだから、地域に密着しているクラブとしては、他の町のクラブが同じ日に試合をしていても影響を受けないからである。
 テレビの時代になると、そうはいかない。同じ日に各地で行なわれる試合が、それぞれテレビ放映されると、人びとはもっとも面白そうなゲームにチャンネルを合わせることになる。ひとりの人間は同時には一つのチャンネルしか見ることはできないのだから、結局、多くのテレビ中継が行なわれても、注目を集めるのは、そのうちの一つか二つになる。それを防ぐためには、試合を分散して開催して、毎日テレビでサッカーを見られるようにしたほうがいい。
 そうなったときに「地域のサッカー」の理念はどうなるのか。その実情を見るのが、今回の旅行の一つの目的だった。 
 分散開催のおかげで、8日間に4試合を見ることができたのは、欧州の地域に密着していない、ぼくたちには有り難かったけれども、これは大きな問題点なのである。


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