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サッカーマガジン 1996年10月16日号

ビバ!サッカー

学生とともに10日間
―欧州サッカー調査の旅@―

 9月下旬に学生2人とともにヨーロッパに行ってきた。イタリアのサッカーを研究したいという熱意に誘い出されたのだが、最近のヨーロッパのサッカーの戦術とクラブ運営の問題点を実地に確かめてみたい、というのも狙いだった。その報告は追い追いすることにして……。

☆サッカー・プロジェクト
 ぼくの勤めている兵庫県加古川市の大学の学生が「サッカー・プロジェクト」と称するクラブを作った。目的は「世界サッカー大事典を編纂(へんさん)するための調査研究」という大それたものである。そのためには実地に本場のサッカーを見なければ話にならないというわけでヨーロッパ旅行を計画した。
 実のところは、ぼくを顧問に祭り上げ、ガイド兼通訳に仕立てて、夏休みの終わりにサッカー旅行を楽しもうという魂胆である。 
 「世界サッカー大事典」の編纂は100年がかりの大事業になるに違いないから、まずはヨーロッパから手を付けることにし、ヨーロッパといってもいろいろなので、まずはイタリアからはじめることにした。 
 調査研究が大義名分だから、ただ試合を見て「すげえなあ」と感心しているだけではすまない。そこで、それなりの、もっともらしいスケジュールを加えなければならない。 
 というわけで、まずローマに飛んだ。ローマでは試合を見る日程は組めなかったのだが、フェデラチオーネ・イタリアーナ・ギオコ・カルチョ、すなわちイタリア・サッカー協会を訪ねて「イタリアおよびヨーロッパのサッカーの現状と課題」について事情を聴取したわけである。 
 ぼくの自宅から趣旨を説明したファックスを送ったら、折り返して「喜んで調査に応ずる」とファックスで返事が来た。 
 すごいねえ。ラテンの国が、こんなにすばやく返事をくれるとは思わなかった。

☆イタリア協会で 
 大学時代からのサッカー友だちがローマの「日伊文化会館」の館長をしている。その友人に、この話をして「ラテンの国もビジネスライクだね」と感心してみせたら「サッカーだけはね」と、かわされた。
 サッカー協会を訪ねた日、ホテルを出るときに土砂降りの雨が来てタクシーがなかなかつかまらなかった。そのために約束の時間に30分遅れたが、ぼくは「イタリアだから30分遅れくらいは、ふつうだろう」とタカを括っていた。 
 ところが先方は、いらいらして待っていてくれたらしい。「サッカーだけは、この国でも定刻に始まるんだよ」と、これも友人の話である。
 イタリア協会で聞いた話の中心は「ボスマン判決」だった。詳しい内容は改めて紹介することにしたいが、要するにボスマンという選手が移籍の自由を求めて訴えていた裁判で勝訴した件である。そのために今年からは、クラブとの契約期間が過ぎたプレーヤーは自由に他のクラブに移ることができるようになった。 
 一般の社会では、契約期間が過ぎたら自由になるのは当たり前だが、スポーツではプロ制度の根幹を揺るがす大きな問題になっている。 
 というのは、これまでは選手が移籍するときには、移籍先のクラブから元のクラブへ移籍金を払っていたのだが、今後はタダになったので、ACミランやユベントスのような金持ちのクラブが、スターを掻き集め、選手を育てた貧しいクラブは、選手育成の対価をもらえなくなったからである。

☆8日間で4試合
 ボスマン判決の影響について勉強したあと、ローマからパリに飛んだ。
 今回の旅行の目的は「イタリア・サッカーの調査研究」だが、ビバ!サッカーは自由自在である。「イタリアに決めたらイタリアだけ」というように凝り固まったりはしない。広く周りを見て、もっとも有効なパスを出す。ローマからパリヘのショートパスも視野のうちである。
 パリヘ飛んだのはパリ・サンジェルマンの試合を見るためだった。
 ここには、ついこの間まで日本のアントラーズでプレーしていたレオナルドがいる。そのプレーを見ようというわけである。
 このパリ行きは、同行の学生のアイディアだった。
 学生たちはサッカーの雑誌をよく読んでいて、ヨーロッパのサッカー事情についても、なかなか詳しい。大ベテランのぼくは、古き良き時代の知識がこびりついているから「国内リーグの試合は土曜日か日曜日、国際試合は水曜日」という先入観から抜けきれない。
 事情が変わっているのは知っているつもりなのだが、それでも計画を立てるときに「10日間の日程なら2試合見るのがせいぜいだな」と考えてしまっていた。
 しかし、学生は綿密に日程を調べ、パリ行きを計画した。パリからはミラノに飛び、イタリア・プロリーグのオフィスを訪ねたほか、さらに3試合を見た。結局、正味8日間に4試合を見た。
 レオナルドのプレーぶりを含め、詳しいことは次号以下で改めて報告することにしよう。


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