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サッカーマガジン 1996年10月9日号

ビバ!サッカー

協会75周年の記念行事

 日本サッカー協会75周年の記念行事は実に盛大だった。各地の地方協会の功労者たちが、おおぜい招かれて表彰されたが、現在の隆盛のかげには、こういう諸先輩の地道な努力があったのだから、それを忘れなかったのはいい。しかし行事全体は、盛大すぎて空疎な感じがした。

☆テレビ向きの演出
 日本サッカー協会の75周年の記念行事が行なわれたことは前にも書いた。サッカーの歴史をときどき振り返ることは必要だろうと思う。だから75周年を忘れずに盛大な記念行事を開催したのは、基本的には、おおいに評価している。
 とはいえ、あまりにも盛大すぎたので、ちょっと違和感があった。
 9月10日に東京の新高輪プリンスホテルで開かれた記念行事に行ってみたのだが、これは歴史を顧みる催しというより、けばけばしい舞台装置で演出されたイベントだった。テレビとスポンサーを意識していることが、ありありだった。
 まず岡野俊一郎さんの特別講演があり、引き続いでパネル・ディスカッションがあった。 
 岡野さんの講演は協会の75年を年代順に振り返った啓蒙的なものだった。長年のテレビ解説や講演で鍛えられているから堂に入ったものである。分かりやすく聞きやすかった。聴衆は、ほとんどが、東京を含む各地のサッカー協会で長年、サッカー協会の役員として苦労された功労者だった。75周年を機会に表彰されるために招かれた方がたである。あるいは各地の協会の現在の役員だった。2002年ワールドカップ準備委員会のメンバーの席も広く取ってあったが、ここは欠席者が多かった。
 率直に言って、出席していた聴衆の大部分は年配の関係者だったから、岡野さんの啓蒙的な話は聞きあきた内容だっただろう。本当に岡野さんの話を聞いてもらいたい人は、あまり出席していなかった。

☆内容と聴衆の違和感
 岡野さんの講演の内容と聴衆との間に違和感があったのには理由がある。
 まず、このシンポジウムが、NHKの教育チャンネルで録画放映されたことである。テレビの視聴者は、サッカーのクロートではないから、その内容を啓蒙的なものにしたのは当然である。
 では、なぜ聴衆が、ほとんど関係者だったかといえば、これは、ぼくの推量では座席を埋めるためである。
 シンポジウムや講演会を企画するとき、主催者がいちばん頭を痛めるのは、お客さんに来てもらうことである。客席がガラガラでは盛り上がらない。
 サッカー協会75周年のシンポジウムのためには、豪華ホテルの大きな会場が用意されていた。しかもウイークデーの昼間である。この座席を埋めるのは容易でない。
 そこで全国各地の功労者の表彰とシンポジウムのドッキングが考えられた。47都道府県から10人ずつ出席してもらっても、500人近くの人を集められる。これは、なかなかのアイディアである。
 大がかりなシンポジウムを企画したり、そのための集客作戦を考えるのが悪いと言っているわけではない。
 でも、テレビスタジオのような空疎な舞台を作り、全国で地道な努力をされてきた功労者をエキストラに動員したのには違和感があった。
 しかし、イベントを企画したエージェントにとっては、これが見栄えがよくて、お金が集めやすくて、効果的な方法だったのだろう。

☆もっと地道な企画も
 講演に続いてパネルディスカッションがあった。パネリストには、ボビー・チャールトンとジーコが加わっていた。Jリーグ・チェアマンの川淵三郎さんもいた。テーマは「日本のサッカーの未来」だった。岡野さんの講演で過去を振り返り、ディスカッションで未来を論じようというアイディアである。狙いは良かったし、一人ひとりは、それぞれいい話をした。ボビー・チャールトンの話は、やや保守的ではあったけれど、しっかりしていて興味深かった。
 ただ、全体としては焦点を絞りきれなかったように思う。
 グローバルな情報時代と空前の長寿社会が出現しつつあるときに、サッカーはどのように21世紀を迎えるのだろうか。地域に根を下ろしたクラブ組織と、地球を飛び回るエンターテインメントとしてのプロ・サッカーは、どのように結びつくのだろうか。そういうテーマを突っ込んで議論すれば有意義だったと思う。
 しかし、記念行事のシンポジウムは一種の「ショウ」だったから、面倒な話はふさわしくなかったのだろう。それに時間的な制約とポルトガル語の同時通訳の聞き取りにくさが加わって、表面をなぞっただけの内容になった。ジーコもボビーも、結局は人寄せパンダだった。
 最後に、実に盛大ではなばなしいパーティーがあった。元総理大臣などお歴々がおおぜい出席した。
 ま、それもいい。でも、もっと地道な企画や、大衆的なイベントや、子どもたちに役立つ催しができなかったのかなと思う。


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