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サッカーマガジン 1996年9月11日号

ビバ!サッカー

加茂監督への雑談取材

 アトランタ・オリンピックが終わり、次の目標はフランス・ワールドカップの出場権だ。日本代表チームの加茂周監督はワールドカップ予選をしっかりと見据えているに違いない。その頭のなかに、どんなシナリオが描かれているのか知りたいなと思っていたら、たまたま……。

☆アトランタの評価
 夏休みで東京に来て東京駅から山手線の電車に乗ったら、日本代表チーム監督の加茂周さんに、ばったり出会った。ラッキーだなあ。東京の新聞社でサッカー記者をやっていたときに会いたいと思っても、なかなか約束がとれなかったのに……。
 さっそく電車の中でインタビューしたけど、これは加茂さんの方は、単なる雑談のつもりだから、読者の皆さんも、そのつもりで読んでいただきたい。つまり、ぼくの方は聞いたことに責任をもつけど、加茂さんの方は話したことに責任をもつ必要がない形式の話である。
 「アトランタ・オリンピックの成績をどう思いますか?」 
 「ふふふ。新聞記者の方に、よく聞かれるんですけどね。ノーコメントということにしてるんですよ」
 「ブラジルやハンガリーに勝つなんて、ぼくらの世代からみれば夢のようだけど……」 
 「レベルの差は、まだまだ大きいですよね。ブラジルとは20回試合をして1回勝てるかどうか、というところで、その1回がオリンピックの最初の試合になったわけだけど、それにしても外国に出ての公式戦での白星だから価値がある」
 「23歳以上の日本代表を3人補強できるところを補強しなかったのはどう思いますか」 
 「あれは協会が西野監督に判断を任せて西野監督が決めたんでしょ」 
 「人情とチームワークを大事にしたのはプロらしくないと思うけど」 
 「さあ、それはどうかな。ま、ぼくだったら3人加えますけどね」

☆日本代表の悩み
 話しぶりから察するに、アトランタの戦いぶりについての考え方は、加茂さんも、ぼくも、似たようなものらしい。
 3人を加える問題については、加えないのも一つの考え方だが、タイトルマッチに臨む以上は、ベストのメンバーを揃え、ベストのプレーヤーを使いこなして戦うべきだったと、ぼくは考えている。
 3人を加えていれば決勝トーナメントに進出できたとは言えないにしてもである。
 しかし、代表チームを預かる監督の立場としては、若手の代表チームの同業者について批評がましいことを外部に言うわけにはいかない。電車のなかの雑談では、この程度が精一杯だろう。
 「ところで、日本代表チームの方はどうですか」
 と、ぼくは本題に切り込んだ。
 「まあ、ぼちぼちですわ」 
 これは、いくら雑談でも、うっかりしたことは言えない。毎週のビバ!サッカーの材料を、ぼくが鵜の目鷹の目で探していることは先刻ご承知である。
 「守りはまずまずですけどね。守備ラインのプレーヤーが、攻めに出たときに仕事ができるような状況にできないと…」
 「攻めに出たところにパスが出ないというわけ?」
 「いまJリーグでは、攻めの起点が外人ですからね。日本人のプレーヤーは、ボールが来ても、隣に寄ってきた味方の外人選手にポンと渡すだけですからね。攻めのパスを出すのは外人だ」

☆攻めを組み立てる
 電車のなかの雑談だから、詳しく突っ込むことはできなかったのだけれど、次のような事情じゃないかと想像した。
 ボールを取ったプレーヤーは、敵の守りを破るために、もっとも適切なパスを出さなければならない。
 そのためには、あらかじめ全体の状況を見ていて、どこにパスを出せばいいかを、すばやく判断しなければならない。
 ある時には、最前線のポスト役にぶつけ、ある時は長いサイドチェンジのパスを出して後方からの攻め上がりを生かし、ある時はスルーパスで中央突破を狙うことになる。
 そういう鋭い判断とパスの能力が必要である。
 「一人の組み立て役に任せるというサッカーではなくなってますからね」
 と加茂さんは言った。
 敵の守りの詰めが厳しく、もたもたしているとボールを奪われて逆襲を食う。だから、ゆっくり組み立て役にボールを回す余裕はない。ボールを取ったら誰でも組み立て役にならなければ、すばやい攻めはできない。
 ところが、Jリーグで外人頼りのサッカーをしているので、使われる仕事はできるが、使う役になれないプレーヤーが多い。ま、そういうことだろうと想像した。
 12月のアジアカップを経て、来年のワールドカップ予選が目標である。それまでのチーム作りのシナリオが加茂監督の頭のなかにあるのを推察することはできた。


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