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サッカーマガジン 1996年7月31日号

ビバ!サッカー

2002の情報論!

 日韓共催の2002ワールドカップは、21世紀の高度情報社会への突破口にならないだろうか。高速大容量の通信回線が国境を越えて網の目のようにネットを張り、マルチメディアの情報が、双方向型で世界を駆けめぐる。そういうサッカーの大会をイメージしてみよう。

☆21世紀の情報網
 「21世紀の経済情報の流れは、どのようなものになっているだろうか。あなたの考えを述べなさい」
 これは、ぼくが兵庫大学の講義で学生に書いてもらったレポートの課題である。経済情報学部の学生なので、経済についての情報の流れをテーマにしたわけである。
 前の年、非常勤講師として勤めている京都の龍谷大学では、次の課題を出した。
 「21世紀のスポーツ情報のシステムは、どのようなものになっているだろうか」
 こちらはスポーツ・サイエンス・コースである。 
 21世紀といっても範囲は広い。
 2001年は6年後だが、21世紀末となれば、あと100年以上ある。どの時期を想定して小論を組み立てるかは、学生たちに任せることにした。
 「ワールドカップのときに、サッカーの情報の流れは、どのようなものになっているだろうか」 
 こういう課題を出した場合には、範囲は限られてくる。 
 ここで取り上げなくてはならないワールドカップは、2002年であり、日韓共同開催である。 
 2002年が日本の単独開催になる場合は「バーチャル・スタジアム」が、売り物の一つになる予定だった。 
 実際に試合が行なわれているスタジアムとは別の、遠い場所にあるスタジアムに、最新の立体映像伝達装置を設置する。そうすると、まるで目の前で試合が行なわれているように映像による試合を見ることができる。

☆夢の映像競技場は?
 日韓共催で「バーチャル・スタジアム」は、どうなるのだろうか。
 ぼくの考えでは、バーチャル・スタジアムが海を越えて実現すれば、共催の意義は非常に大きなものになる。横浜での試合を、そのままソウルで見ることができるし、ソウルの試合が、そのまま大阪で「仮想の現実」になるからである。
 しかし、これはぼくのシロート考えである。
 いまから6年後に、この夢が技術的に可能がどうかは、ぼくには分からない。つまり、21世紀の初頭のスポーツ情報システムが、立体映像として国境を越えるかどうかは、明確には見通せない。
 立体映像を、リアルタイムで、つまり「同時中継」で遠隔地に送るためには、どんな条件を満たさなければならないだろうか。
 考えられることの第一は、非常に大量の情報を送らなければならないことである。動きも、色も、音も、テキストも、マルチメディアで送らなければならない。
 第二に、この大量の情報を、高速で送らなければならない。ソウルでは90分で終わった試合が、大阪では120分かかったのでは、さまにならない。
 第三に、立体映像として送るためには、少なくとも2つのチャンネルが必要ではないか。ぼくは、かつて映画館で「立体映画」なるものを見たことを思い出している。立体的に映画を見るために、右と左で色の違うメガネをかけた記憶がある。つまり2チャンネルのメガネである。

☆双方向の情報ネット
 大量の情報を高速で送るためには、大容量の回線が必要である。
 2002年に、日本では会場の15都市を大容量の光ファイバーのケーブルでつないだネットワークができているだろう――と、ぼくは想像している。
 日本中に光ファイバーのケーブル網が完成するのは、2015年か、早くても2010年という計画らしいが、北海道から鹿児島までの幹線はすでにできているのだから、15都市を2002年までに結ぶのは、技術的には、そうむずかしくはないだろう。
 そういう光ファイバーのケーブル網を国境を越えて延ばし、さらに韓国内の会場都市にも網の目を張って両国にまたがるネットワークを組むのは、どうだろうか。
 技術的には可能だろうと思う。現にインターネットで情報は世界中を飛び回っている。 
 しかし、経済的、政治的な問題はあるかもしれない。ケーブル網が整備されただけではネットワークは機能しない。ネットのそれぞれの結び目で情報を生産し、加工し、送受信しなければ、情報は飛び回らない。南北の緊張状態が続いている中で、各地での取材が勝手に行なわれ、情報が野放図に世界中で飛びかうのはどうだろうか。好ましくないと思う人たちも、いるかもしれない。
 バーチャル・スタジアムが海を越えて実現できるのかどうか、双方向型マルチメディア送受信のネットワークが組めるかどうか。 2002年まで6年しかないのだが……。


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