アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1996年7月24日号

ビバ!サッカー

2002のテレビ放映権

 日韓共同開催の2002年ワールドカップで、運営上もっとも大きな問題はテレビ放映権だろう――と論じようとしていた矢先に「放映権料は1150億円」というニュースが飛び込んできた。そんなに高値で売れたのなら万万歳、と安心していいのか、むしろ高すぎることが問題なのではないか?

☆1150億円の非常識?
 7月3日、チューリヒ発の外電は次のように伝えている。
 「FIFA(国際サッカー連盟)は、日本と韓国で共催する2002年ワールドカップの国際テレビ放映権を、スイスの代理店『スポリス』とドイツの有力メディア・グループ『キルヒ』の共同グループに10億4000万ドル(約1150億円)で売り渡すことを決めた」
 外電だけで、詳細は分からないが「ああ、やっぱり」というのが、ぼくの最初の感想である。
 日韓が激しく争った2002年の開催地の招致合戦の背後にFIFAのアベランジェ会長とヨハンソン副会長の対立があったことは、かねがね伝えられている。
 そして、その対立のそのまた背後に、ワールドカップのテレビ放映権料の問題があることも、事情を知る人たちの間では、かねてから推測されていた。
 「アベランジェは、ワールドカップの放映権を安く売りすぎている」というのが、ヨハンソン副会長の批判だった。
 90年のイタリア、94年の米国、98年のフランスの3大会のテレビ放映権を一括して、FIFAは2億7200万ドル(約300億円)で国際公共放送連合に売り渡していた。1大会約100億円である。
 これは今回の2002年の放映権の落札価格にくらべると、ずいぶんと差がある。
 これまでの金額が非常識に安かったのか、それとも今回の金額が非常識に高いのか?

☆五輪がなぜ高かったか
 アトランタ・オリンピックのテレビ放映権料は、約927億円である。これにくらべると、これまでのワールドカップの放映権料は、いかにも安い。ヨハンソン副会長のアベランジェ批判は、もっともである。
 地球規模で見れば、ワールドカップヘの関心は、オリンピックをはるかに上回る。
 日本のブラウン管がオリンピックの衛星中継で占領されているときに、欧州や南米では「え、どこかでオリンピックが開かれてるの?」という程度の感じである。
 逆にワールドカップの開催中に欧州や南米を旅行すると、世界中がサッカーに熱狂していて、ほかの政治や経済は、すべてお休みなんじゃないかという気持になる。
 そういうことを考えると、フランス・ワールドカップの放映権料が、アトランタ・オリンピックの9分の1強というのは、いかにも不当である。
 しかし、オリンピックの放映権料が高いのにも理由がある。
 地球規模で見れば、サッカーのワールドカップへの大衆の関心度は、オリンピックをはるかに上回るし、テレビの視聴率も高いけれども、米国と日本に関しては、ワールドカップよりもオリンピックである。とくに放映権料の大部分を負担しているのは米国のテレビ局だから、オリンピックの方に多くのお金が支払われるのは当然である。
 ワールドカップの放映権料をあげるには、米国と日本より欧州と南米がたくさん払わなければならない。

☆負担するのは日本?
 IOC(国際オリンピック委員会)によると、2000年シドニー・オリンピックについて、米国のNBCは7億1500万ドル(約787億円)支払うことになっている。これは米国とカナダだけについてだから、その2年後のワールドカップが10億4000万ドルというのは、必ずしも高すぎるとは言えない。
 ただし外電によれば、2002年ワールドカップの10億4000万ドルには、米国での放映権は含まれていない。ということは、2002年の放映権料1150億円は、主として日本と欧州で負担しなければならないわけである。南米はサッカーヘの関心は高いけれども、いまのところテレビの普及率や経済力からみて多くを期待するわけにはいかない。
 テレビ放映について、もう一つ考慮しなければならない要素がある。それは地球は丸いということである。
 地球が丸いために、国によって時差が生まれる。もしワールドカップの試合を、日本時間でテレビのゴールデンアワーの午後7時から行なうとすれば、欧州ではお昼前、米国や南米では早朝ということになる。
 視聴率の高い時間帯に放映できれば、テレビ局は高い料金を払うことができるが、いい時間帯に放映できないのであれば、それほどの放映権料は払えない。
 つまり、日韓共催の2002年の場合、米国や欧州に放映権料の負担を多くは期待できない。したがって1150億円の大部分は、日本と韓国、いや実際には日本に期待されているということではないだろうか?


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ