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サッカーマガジン 1996年6月26日号

ビバ!サッカー

日韓共同開催の具体案!

 2002年のワールドカップは、日韓共同開催になった。決まった以上は、世界のサッカーのために、またアジアの平和と安定のために前向きに考えたいが、会場都市に予定されていた日本の15の自治体の扱いなど、考えなければならないことがたくさんある。そこで…。

☆15の自治体を守れ
 「規則第18条だからな。仕方がないか?」
 サッカーの競技規則は実際には17条までだが大事なのは第18条だというサッカー独特の格言がある。本来は「規則の条文に書いてなくても良識で」という意味である。
 今回の2002年ワールドカップ開催地決定は、規則にないのに「2カ国の共同開催」になった。つまり第18条の適用である。ゴール直前に規則を曲げるのが良識とは思えないが「長いFIFAには巻かれろ」だろうと諦めている。
 日韓共同開催が悪いとばかりいうつもりはない。これが、日本と韓国のサッカーの共存共栄につながればすばらしいし、アジアの平和的な繁栄と政治的な安定を導けばノーベル平和賞ものである。共催が決まった以上は、歴史に残る成果を生み出せるように持っていきたい。
 ただし、その前に考えておかなければならないことが二つある。
 一つは、日本と南の韓国とが密着するあまり、北の朝鮮民主主義人民共和国の孤立化を招かないようにしなければならないことである。
 もう一つは、日本の15都市に対して適切な善後策を考えることである。15の自治体は、招致運動のための巨額な費用を分担してきただけでなく、競技場建設もすすめてきたし、地元の人たちがサッカーとワールドカップに関心を持つようにPRの努力も重ねてきた。Jリーグ入りをめざすクラブ作りにも自治体として応援している。その後始末をどうするんだろうと心配である。

☆ホームタウン方式
 平松大分県知事は「日韓共同開催でも、15の自治体がみな、単独開催の場合と同じ数の試合ができるように考えるべきだ」と注文を付けたという。
 そのための方法を、ぼくも考えてみた。
 ワールドカップ決勝大会の出場は32チームになる。これを日韓でどう配分するかが、まず問題である。
 国の人口をみると3対1、一人当たりの国内総生産(GNP)でいくと4対1で日本が多い。この比率だと32チームのうち20あるいは24チームが日本に来ていい計算になる。 
 しかし話を簡単にするために、半分ずつ16チームが日本で1次リーグを戦うと仮定しよう。つまり4チーム1グループで4グループの1次リーグを日本でやることになる。
 これまでの方法を踏襲すると総当たりで1グループ6試合、計24試合が行なわれる。これを15都市でやると1都市で1〜2試合で終わりになる。4万人以上収容のスタジアムを作り、10年にわたって準備して、これでは、あっけなさ過ぎる。
 ぼくの画期的な案はこうである。
 会場都市を、もう一つ増やして16にする。韓国と一衣帯水で、博多の森にすばらしいサッカー場をもつ福岡がいいと思う。 
 そして、この16都市に世界の16チームを1つずつ割り当ててホームタウンとする。たとえば新潟はブラジルのホーム、横浜はドイツのホームというようにする。 
 そして1次リーグの試合は、Jリーグと同じように「ホーム・アンド・アウェー」で行なう。

☆一石数烏の名案?
 この方式だと1都市の試合数は、1次リーグだけで3試合となる。単独開催で32チームが16都市で1リーグをした場合と同じ数である。
 かりに前年の12月に組合わせ抽選が行なわれて、新潟がブラジルのホームタウンに決まったとする。新潟県はブラジルとサッカーの提携地域になり、半年にわたってブラジルとのいろいろな交流計画を組むことができる。新潟県民はサッカーだけでなく、いろいろな分野でブラジルを知ることができる。一石数鳥である。
 1次リーグが2回戦総当たりになるから、全部のチームの滞在期間が少し長くなる。しかし、どのチームだって、その次のステージへ勝ち上がろうと思って戦っているのだから、みなが勝ち上がったと考えれば、滞在期間が延びたことにはならない。試合数が増えて配当金が増えるのはチームにとってプラスである。 
 次のステージを日韓合わせて16チームによる決勝トーナメントにすれば、大会全体の日程を延ばす必要はない。ほかにも方法はあるので、読者の皆さんが、それぞれに考えていただきたい。問題点はあるにしても検討に値すると思う。 
 この案のいいところは、15の自治体のなかから犠牲者を出さないですむところである。 
 「日本も韓国も犠牲者にしない」という温情主義の規則18条方式で共同開催にしたのだから、日本の国内で犠牲者を出すのは理に合わない。
 日本の招致委員会は、このような具体的な提案を固めて、強い立場でFIFAと交渉すべきである。


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