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サッカーマガジン 1996年4月24日号

ビバ!サッカー

観客数はなぜ減ったか

 4年目のJリーグ、観客数やテレビの視聴率をみて人気の陰りを指摘する声もある。プロのスポーツが高校のスポーツに悪い影響を与えるのではないかと心配する声もある。Jリーグのさらなる発展のために、厳しい批判にも耳を傾けることにしたい。最初に「観客数の減少」を取り上げよう。

☆ヴェルディでも売れない?
 「ヴェルディの開幕試合が札止めにならなかったのだからね。ほかが思いやられるよ」 
 Jリーグ開幕の直後に東京の友人が、電話でこう報告してきた。
 「ヴェルディは新聞社が支えているクラブだから大きな宣伝力をもっているはずだ。それでも観客数が落ちている。サッカーの人気低落は危機的なんじやないか」
 というのが友人の意見だった。 
 ぼくは新聞社のスポーツ記者だったころの経験を思い出した。 
 プロ野球の巨人の開幕試合の時に外野席の入り口の行列の先頭にいた少年を始球式に起用した。その少年に「切符はどこで手に入れたの?」ときいたら「新聞販売店からもらった」と答えたのである。 
 当時は、長島、王が活躍していたプロ野球の黄金時代で、巨人戦の入場券は「プラチナ切符」といわれたくらい手に入りにくかった。それでも実は、新聞社が販売店を通じて入場券を講読者に配って、後楽園球場を満員にしていたのだった。 
 ON全盛時代の開幕試合だから、タダ券を配らなくても切符は売り切れたに違いない。しかし、球団側としては、あえて販売店に切符を割り当てて観客を確保したのである。
  不人気になったときに切符を引き受けてもらおうとしても、販売店は「いらない」というだろう。プラチナ切符といわれているときにも優先的に割り当てて、観客動員のルートを大切にしておけば、人気が落ち目になったときに役立つかもしれない。そこがポイントである。

☆地道にファンを育てよう!
 この話をJリーグの観客動員と結びつけて、二つのことを考えた。
 一つは「ヴェルディの開幕試合が満員にならなかったのは、かえって健全な現象ではないか?」ということである。
 つまり、新聞社が関係しているチームだからといって、無理をして観客動員をはからなかった、それで満員にできなかった、とも考えられるからである。もらった切符で見にくるお客さんでスタンドを埋めるよりも、本当に身銭を切って応援にきてくれるサポーターを大事にするほうが健全である。
 もう一つの感想は「観客確保のルートを作る努力がされているのだろうか」ということである。
 Jリーグ創設当初のブームに浮かれていて、地道なファンを育てる努力を忘れていたのだったら、その報いが来たというべきかもしれない。
 コンピューター化されたプレイガイドに先を争って電話を掛けるファンに頼ったり高額のシーズン席を無理に売り付けたりするようなことをしていたら、一時的に作られた人気が消えたあとに、ファンも潮が引くように去っていくのは当然である。
 本当のファンには、プラチナ切符のときでも優先的に切符が手に入るようにしてあげておけば、そういう人たちは不況のときに助けてくれるはずである。
 Jリーグの、どのクラブも、後援会作りなどで、そういう努力をしてきたことは知っているが、それでも地道な努力が、まだ足りないのかもしれない。

☆京都サンガの場合は?
 新たにJリーグに昇格した京都サンガの場合は、どうだったのだろうか。京都にJリーグ・チームが誕生したのを祝うのだから、地元での開幕試合は、無理をしてでもスタンドを満員にするくふうが欲しかったところだが、そうはならなかったようである。
 サンガの観客数については、実は開幕前から、ちょっと心配だった。というのは、前年の秋に、京都の大学のサッカー関係者が「Jリーグには協力しないつもりですよ。地元のサンガが昇格しても、そんなに応援はできません」と言っていたのを聞いていたからである。
 この大学サッカーの関係者が教えてくれた話は、こうである。
 サンガが、Jリーグの下部にあるJFLで試合をするときに、京都のサッカー協会を通じて切符の割り当てがきた。
 「Jリーグに昇格するためには、観客動員でも実績を作る必要があるから協力してくれ」ということだったという。それで切符の割り当てを引き受けて、部員や知り合いに無理をして買ってもらった。
 ところがである。
 「お金を出して切符を買ってスタジアムへ行ったら、タダで切符をもらって見にきている人たちが、たくさんいるんですよ。これでは納得できませんよ。もう協力しません」
 協会の組織を通じて切符を売り付ける一方で、無料の切符も配って観客動員の実績作りを図ったらしい。
 せっかく昇格を果たしたのに、こういう無理の反動で、お客さんを失うようでは困ったものである。


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