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サッカーマガジン 1996年4月17日号

ビバ!サッカー

五輪出場、三つの喜び!

 日本が28年ぶりにオリンピックへの出場権を得た。すばらしい。マレーシアの予選での戦いぶりは、みごとだった。長年、サッカー・ジャーナリストとして仕事をしてきて、本当に報われた思いである。若いプロの個性派が、体力と気力を尽くして戦ったことに感動した。

☆なんと1面トップ!
 日本が準決勝でサウジアラビアを破ってアトランタ出場を決めた翌朝、3月25日付の神戸新聞の扱いは、なんと1面トップだった。
 スポーツ新聞ではない。神戸新聞は地方紙ではあるが、一流の一般紙である。昨年の阪神・淡路大震災のときは、本社の社屋が壊滅しながら発行を続け、世界のジャーナリズムを感動させた評価の高い新聞である。その新聞が日本のサッカーのオリンピック出場権獲得を、その日の一番のニュースとしてランクしてくれたことを、ぼくは心底、喜んだ。
 全国で、サッカーをトップにした一般紙が、他にあったかどうかは知らない。かりに神戸新聞1紙だけであっても十分だ。ぼくの長年の夢が、かなった気持である。
 40年前に新聞社に入ってスポーツ記者生活を始めたときから、サッカーの記事を少しでも大きく載せてもらいたいと悪戦苦闘を続けてきた。4年前に新聞社勤めを辞めるまで、その悪戦苦闘は続いていた。
 新聞記者を廃業したとたんにJリーグ・ブームが来て、サッカーの扱いは大きくなったが、一般紙の1面トップがあったかどうか。ぼくの記憶にはない。
 1面トップになった原因は、編集者が「サッカーは大衆に人気のあるスポーツだ」という印象を持っていたことだろう。Jリーグの試合がスタジアムをいっぱいにしたことが、ニュースの価値判断に大きな影響を与えたのだと思う。
 お客さんを集めるスポーツでないと、新聞も大きな扱いはできないのである。

☆プロ主義の勝利!
 今回の日本オリンピック代表は、みなJリーグ・プレーヤーだった。オリンピックのサッカーは、前回から原則として23歳未満の若い代表チームの大会になったから、日本の選手たちも、もちろん若手だったが、大学チームの選手はいなくて、みなプロだった。これがまた、うれしいことの一つだった。
 いいプレーヤーであれば、プロであろうとアマチュアであろうと、大学生であろうとJリーガーであろうと差別する理由はない。黒かろうと白かろうと、ネズミをとるネコはいいネコである。
 ただ、ぼく個人にとっては、今回のチームがプロで構成されていたのは実に感慨深いものだった。
 というのは新聞社のスポーツ記者になって以来、ぼくはオリンピックのアマチュアリズムに反対し、サッカーのプロフェッショナリズムの良さを訴え続けてきたからである。当時の日本では、オリンピックのアマチュアリズムは絶対で、ぼくの主張は、カマキリが斧を振り上げて城門を壊そうとするようなものだった。
 プロはお金のためにだけしかプレーしない、名誉のために一生懸命やれるのはアマチュアだけだ、というのが当時の日本の考えだった。
 前園が、城が、川口がオリンピック出場権をめざして懸命に戦ったのをブラウン管でみて「プロこそ、本当に全力を注げるんだ」と思った人たちは多いのではないか。
 ぼくの長年の主張が、ようやく認められたんだと自分勝手に納得している。

☆個性派が頑張った!
 プロのオリンピック・チームが体力と気力のかぎりを傾け尽くして戦って成功した。そこんところが、すばらしい。
 それだけではない。プロの若い日本代表は揃いも揃って個性派だった。城も、前園も、中田も、広長も、川口も、たぶん20年前なら「新人類」などと呼ばれて異端児扱いされたに違いないようなタイプだった。
 実をいうと20年前、30年前にも、多くのすぐれたプレーヤーが、実は個性派だった。しかし彼らは、個性を殺すために丸刈りにさせられ、チームワークと闘志を表現するために皆で大声を出すように強制されていた。髪の毛を茶色に染め、得点したらバック宙をして自分をアピールするような選手は、大学や企業のチームから、はじきだされた。
 そういう個性無視の集団主義が、日本のスポーツの進歩を妨げていると、ぼくは主張していた。サッカー・マガジンのバックナンバーを操ってもらえば、30年一日のように同じ主張を繰り返し、常に少数派だったことが分かるはずである。
 ところが、いまや形勢は逆転し、個性派こそ王様である。サッカーだけではない。プロ野球でも野茂やイチローがスターである。そこへ今回、サッカーの若い個性派集団の成功が加わって、ぼくは三つ目の喜びを味わっている。
 オリンピック予選の決勝では、日本は韓国に敗れた。しかし、これは出場権が決まった後の「お花見試合」である。決勝戦の結果など、まったく気にする必要はない。


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