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サッカーマガジン 1996年4月10日号

ビバ!サッカー

日本五輪代表の明と暗

 マレーシアでアトランタ・オリンピック予選を戦っている若い日本代表チームをテレビで見て、明暗二つの感想を持った。明るいほうは「なかなか元気だ。アジアのトップレベルになった」ということであり、暗のほうは「余裕がないな。一生懸命すぎるよ」ということである。

☆初戦引き分けはいい!
 若いチームだから、元気がよくて一生懸命なのは当然だし、すばらしい。ブラウン管に映っている日本オリンピック代表チームの戦いぶりを見て「たいしたものだ」と最初は思った。
 第1戦のイラクとの試合を見て、友人たちは「できがよくない。本来の力を出してない」と言っていたが、ぼくは「よくやるじゃないか」と正反対の意見だった。
 一つには歳のせいもある。ぼくはジャーナリストとして40年以上サッカーを見てきて、日本が長い間、アジアでも最低のレベルだった時代を知っている。その当時に比べるとアジアのどこの地域のチームに対しても、互角以上に戦えるようになったことに感心する。
  若い友人たちは、日本がアジアのナンバーワンなのは当たり前で、ひょっとしたらワールドカップでも通用するんじゃないかと考えているから、評価の基準が違うのである。
 しかし、現在でも、アジアで楽に勝てるほど日本の力はずば抜けていないし、他の国のレベルは低くはない。アジアのサッカーも厳しいのである。
 第1戦のイラクとの試合は1−1の引き分けだった。前半27分の得点は、右からの攻めの組み立ても、広長のミドルシュートも、その跳ね返りを決めた城のシュートもすばらしかった。後半同点にされたが、守りもしっかりしていた。
 初戦だし、相手はグループ最強のイラクなんだから、引き分けという結果は悪くはない。

☆楽に点がとれすぎた?
 第2戦はオマーンに4−1の勝利を飾った。友人たちは「調子が出てきたぞ」と満足そうである。勝てばいい、点がたくさん入ればいい、という結果論だから友人たちのサッカーを見る目は知れている。
 ぼくは逆に、ちょっと不安になってきた。
 たしかに、日本の攻めは、よくなっていた。第1戦は出場停止だった前園が復帰して攻めに変化がついてきた。その点は非常に良かった。
 1点目はPKだが、これは前園と城との見事なコンビの攻めがゴールキーパーの反則を誘ったものだった。2点目、3点目はゆっくりボールをパスを回して敵の守りの隙を見付け、前園、城の走り込みに合わせて鋭いパスが出た。
 パスを出したプレーヤーのチャンスを見る目と、走り込んだ城や前園の動きがぴたりと合ったコンビの良さがすばらしかった。
 にもかかわらず、不安を感じたのは、楽に点がとれすぎたことにある。4点もとれたのは実はオマーンの守りが甘かったからである。ボールを持たせてくれたので、楽にパスを回すことができ、余裕を持って敵の隙を見付け、コンビの良さを生かすことができた。しかし、これから厳しくマークして、厚く守ってくるチームと対戦したときには、こうはいかないだろうと思った。
 第3戦のUAEとは苦戦だった。UAEはすでに望みを失っている立場だったが、守りはオマーンより厳しかった。1−0で勝ったが、この1点はコーナーキックからだった。

☆これからの課題は?
 イラクにしろ、オマーンにしろ、UAEにしろ、個人的にはすぐれた素質のプレーヤーがいる。ボール・テクニックが良く、すばらしくバネのある筋肉を持っている。肉体的素質は日本より、すぐれている。
 日本のプレーヤーが、これに互角以上に対抗できた理由は三つある。
 第一はボール扱いの技術で負けていないことである。技巧的なドリブルで突破するプレーは日本側には少なかったが、これはパスによる組み立てを重視しているためだろう。 
 第二は、コンビネーションがいいことである。2人〜3人でパスを、すばやくつないで攻め込むプレーは実にいい。これはチームとして、まとまって訓練する機会が多かった成果だと思う。 
 第三によく鍛えられている。つまりコンディションがいい。動きの量で常にまさっていたし、蒸し暑さの中で、後半になっても、相手に比べて、ばてていなかった。 
 しかし、こういう良さが、また不安の材料でもある。 
 テクニックで見劣りはしないが、ずば抜けているわけではない。結局は、コンビの良さと体力、つまりチームとしての訓練の成果に長所がある。
 それだけに、同じように、チームプレーと体力に特徴があり、激しく守ってくるチームと対戦したときには、決め手を欠くことになる。 
 そういうときに決め手になるのは、個人的にずば抜けたプレーヤーのリーダーシップによる大きな組み立てである。日本五輪代表の、これからの課題は、そのあたりにある。


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