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サッカーマガジン 1996年2月28日号

ビバ!サッカー

移籍に関する一考察

 ヴェルディの都並が福岡のアビスパに行き、武田が磐田のジュビロに行く。読売クラブのころからの活躍を思うと「さびしいな」という気がする。しかし、つぎつぎに新天地を求めて移籍できるのは結構なことだ。スポーツ選手の移籍には、いろいろな側面がある。

☆スポーツ法学会で
 かつては新聞社に勤めていて自由奔放なジャーナリストだったが、いまはこれでも大学の先生なので、まじめにネクタイをして会合に出ることがある。たとえば「スポーツ法学会」という学会があって、その会員である。
 「法学」について、なんら見識はないのに会員になったのは、スポーツ選手の契約や身分について、疑問に思っていたことを、この学会で勉強しようと企んだからである。
 昨年の暮れに、この学会の総会があり「スポーツ選手の契約問題」がテーマになった。行ってみたら、なんと前ヴェルディの加藤久さんが講師に招かれていた。
 スポーツ選手の契約問題のなかで、もっとも重要なのは、選手とクラブとの関係だろう。 
 たとえば、三浦カズはヴェルディの母体である「読売日本サッカークラブ」と契約している。カズはヴェルディでプレーする義務を負い、ヴェルディは、カズを試合で使う権利をもっている。一方、クラブはカズに報酬を払わなければならないし、カズは約束したお金をもらう権利がある。
 こういう契約は、サラリーマンが企業に勤めている場合の雇用契約とは性質が違う。 
 サラリーマンは、特定の仕事を請け負っているわけではない。一定時間、会社に拘束されて労働を提供するが、仕事が終わったからといって会社から一方的に解雇されることはない。また、本人の意志を無視して別の会社に移されることもない。

☆選手の保有権
 カズがクラブに雇用されているのではないとしたら、どういう約束になっているのだろうか?
 建築屋さんのように、何日までに2000万円で設計図どおりの家を建てるというような請け負い仕事をしているのだろうか。
 必ずしも、そうは言えない。サッカーでお金をもらう契約はしているが、優勝できなくても契約違反というわけではない。
 というわけで、プロ・スポーツ選手の契約が、どういう性質のものであるかは、難しいところらしい。
 そんな専門家の話を聞いて「それでは選手の移籍は、どういう法律関係になるんだろうか」と考えた。
 日本のプロ野球の場合は、選手は球団と1年契約をする。
 しかし、1年たったら自由に、どこの球団とでも契約交渉をできるわけではない。
 その選手と次の契約をする権利は所属していた球団だけが持っている。これを球団が選手の「保有権」を持つといっている。
 所属球団が「どうぞ、ど自由に」と言ってくれれば他の球団と交渉することはできる。これを「自由契約選手」という。自由契約になるのは、けがや年齢で、もう選手寿命が尽きかけている選手が大半である。使える選手は、球団が手放さない。
 しかし、ひとつの球団に捕手が5人も、6人も必要なことはないから、あまった捕手を他の球団に移籍させることはある。これは所属球団が「保有権」を他の球団に売り渡すという形になる。選手の方には、移籍の自由はない。

☆Jリーグの場合は?
 スポーツ法学会では、Jリーグについて加藤久さんが説明した。Jリーグでは、建前としては「希望するクラブと交渉できるから、プロ野球ほど選手にとっては不利ではない」ということだった。
 しかし、選手の報酬や在籍年数によって複雑な計算式があり、それによってクラブ間で移籍料の支払いが行なわれる。この移籍料が非常に高額になると、それほど選手に「有利である」とは言えない。ただしJリーグでは複数年契約ができる。そこは日本のプロ野球とは違う。
 外国では多くの場合は事実上「保有権」を認めているが、実態はいろいろで法的にも問題はあるらしい。
 ぼくの考えでは、プロになってしまった選手については、複数年契約を認めているのだから、契約期間が終了すれば移籍は自由でいい。契約期間内の移籍の場合は、残存期間の契約を売り渡すということになり、その価格は市場原理によって、つまり当事者間の交渉で決まる。
 この方法だと、お金持ちのクラブが多数の選手と高額で長期間契約して出場機会を与えないままに独占保有するおそれはある。これを防ぐためには、ひとつのクラブが保有できる選手数に制限を加える必要はある。プロ野球ではこれを「支配下選手」の制限といっている。
 ただし、これはプロとして、すでに契約した選手の話である。
 新たにプロになる選手の場合は、別の問題が生ずるのだが、これはまた別の機会に、一考察を加えることにしたい。


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