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サッカーマガジン 1995年12月13日号

ビバ!サッカー

加茂監督続投への右往左往

 日本代表チームは加茂周監督の続投に落ち着いた。無事に終わった1年契約のあと当然契約更新かと思ったら、強化委員会が外国人監督を推薦して、サッカー協会は約1カ月間の右往左往。協会首脳部の首尾一貫しない態度や強化委員会の在り方が議論の種になったが…。

☆後味の悪い決定
 和食の料亭とフランス料理のレストランが並んでいて「ま、とりあえず和食がいいか」と料亭の方に入った。
 「つきだしだけで1杯飲んでみっから。気に入ったら料理を頼むよ」と勝手な注文をつけて飲みはじめたが、隣のレストランが気になる。
 そこへ友人がやってきて、「おい、レストランの方が旨いらしいぞ」と報告したので、店を変えることにした。
 「前菜は隣で食べてきたからメイン・ディッシュから頼む」と、レストランでも勝手な注文をしたら「それでも、お代金はフルコース分の3万円いただきます」という。
 3万円は高い。財布と相談して、やっぱり和食の店に舞い戻ることにして、レストランの看板をよく見たら、フランス料理の店ではなくて、ブラジル料理の店だった。ブラジル料理は大衆的だろうと思っていたが、やっぱり一流の店は高い。
 そういえば、フランス料理を食べに行くのは、3年後の話だった。もっとも本当に行けるかどうかは、まだ分からない。
 ともあれ二つの店の間を右往左往した結果、料亭の主人とレストランのシェフの両方が気分を悪くした。
 「品のない客だね。今度来たら、お断わりだよ」
 食べ終わる前から、後味が悪い。
 日本代表チームの監督を選ぶのに加茂周とネルシーニョの間を右往左往した日本サッカー協会は、やっぱり後味の悪い思いをしているのではないか。

☆加茂続投が筋だが…
 ワールドカップまであと3年。1年の任期を終えた加茂周監督の後任に誰を選ぶかで1カ月近くもめた。
 日本代表の監督については、これまでにも、何度も書いてきた。繰り返しになるけど、ぼくの考えを振り返っておこう。
 1年前に、加茂監督が選ばれたときには「5年遅いよ」と思った。加茂周さんは、実力も実績も見識も十分である。5、6年前に、実績をあげられなかった当時の監督に代わって代表チームを指揮させるべき人物だった。日本人のなかから選ぶのなら他にはない。しかし、いまごろ登場させるのは、タイミングを失している、と思った。
 それにしても、やらせるのなら1年契約でなく、1998年のフランス・ワールドカップまでの4年間、任せるべきである。重要な国際タイトルのない、この1年間だけ契約したのは中途半端だ。
 つまり、いまから1年前の時点で、フランスのワールドカップを加茂周に預けるのか、他の外人監督を探すのか、決断すべきだと、ぼくは考えた。
 したがって1年契約であっても、大きな失敗がないかぎり、ワールドカップまで加茂周監督に任せるのが当たり前だと思っていた。だから、今ごろになって、ネルシーニョだ、ベンゲルだ、オフトだと別の名前が次つぎに飛び出したのは、意外だった。
 それも、強化委員会から出てきたので、びっくりした。強化委員会の役目は、加茂監督をサポートすることだと思っていたからである。

☆もしネルシーニヨなら?
 和食をやめて、ブラジル・レストランに行くように勧めたのは、加藤久ちゃんだった。加藤久委員長の強化委員会が、加茂周の続投ではなくネルシーニョ監督を推薦した。
 ネルシーニョを推すアイディア自体はおもしろい。
 ネルシーニョの監督としての手腕は、ヴェルディを優勝へ導いたことで証明されている。日本のサッカーも、日本人のプレーヤーも、よく知っている。 
 加藤久・強化委員長は、読売クラブ−ヴェルディにいて、いろいろな外国人コーチを見てきている。その委員長が推薦するのだから、ネルシーニョは、間違いなく、すぐれたコーチだろうと思う。 
 加茂周が悪いわけではない。しかしワールドカップ予選を勝ち抜くのは相当に困難な仕事である。無難な加茂周監督の実績よりも、有望なネルシーニョの未来に賭けてみたい。そういう気持だろう。 和食は食べ慣れていて、おいしい。しかし、明日の労働の厳しさを考えると、ステーキを食べてスタミナを付けておく必要がある。
  ブラジルのステーキは、霜降り肉じゃないから、硬すぎて消化不良を起こす心配はある。しかし和食で頑張って善戦しながらスタミナ切れになるよりも、一か八かでステーキに挑戦してみる価値はある。 
 加藤強化委員長は賭けを勧め、協会の幹部は筋をとった。その間、わけの分からないことは、いろいろあったが、もしネルシーニョにやらせたらと考えてみるのもおもしろい。


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